今、リーダーに求められていること - 僕が考える理想の指導者像(原 晋さんコラム - 第1回)

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みなさん、こんにちは。原晋です。

最近、陸上部の監督という役割柄、若者を育てたり、強い組織をつくるための秘訣を聞かれたり、講演したりする機会が増えています。変化が激しく、先の読めない今の時代、一人ひとりのメンバーの可能性を広げることが、組織の存続につながります。そしてそのためのリーダーや指導者の役割は、ますます重要になってきています。

これからの時代のリーダーはどうあるべきか。若者の力を引き出し、強い組織をつくるにはどうすればいいのか。このコラムでは、青山学院大学陸上競技部を指導してきた経験から、僕なりに感じていることをお伝えします。

現代のリーダーの役目は、メンバーが自ら成長する仕組みづくり

第1回では、僕が今の時代に理想的だと考える指導者像についてお話しします。かつて政治や経済、スポーツの世界にはカリスマ的な指導者がいました。でも、そのような強烈なリーダーが組織を率いる時代は終わったと思っています。

変化が激しく、価値観が多様化した現代では、どんなに優秀でも、一人のリーダーが組織を長期的に率いることは難しく、カリスマ経営者が退いた途端に会社の業績が一気に悪化する、なんてことはよくあります。今のような変化の時代に強いのは、メンバー一人ひとりが主体性をもち、自立的に成長していく組織です。そのための仕組みをつくったり、サポートしたりすることが、これからのリーダーとして最も重要な役割だと考えています。

青山学院大学陸上競技部の監督に就任したとき、僕はまず、自分がいなくても、メンバーが自立的に成長していき、結果を出し続けられる組織をつくろうと考えたのです。

とはいえ、最初から思い通りにことが進んだわけではありません。僕が監督になったばかりの青学は、まったくの弱小チームでした。選手の能力も、駅伝への熱意や意識も、今では考えられないくらい低かったんです。ですから当初、僕は組織のトップに君臨する指導者として、細かなことまで手取り足取り指示出しし、ときには厳しいことも言いました。

でも選手たちの能力や意識があがっていくにつれ、徐々に彼らの自主性に任せる方向へシフトしていきました。選手たちが自分で目標を定め、練習方法を考え、自立的に成長していく。それを適切にサポートするために、日頃からよく選手たちを観察し、必要なときに最小限の助言をするようにしました。はじめ、選手は「教わる」立場なのですが、力をつけるにつれて徐々にそうではなくなっていきます。やがて、僕の出番はだんだんと少なくなっていきました。

何より大事なのは、ぶれない信念と困難から逃げない心

世のなかには、さまざまなリーダー論や指導ノウハウがあふれています。ただ結局のところ、リーダーに求められるのは結果です。どんなに理念やノウハウがすぐれていても、結果を出せなければ評価されることはありません。そういった意味で、指導者にとって最も大事なことは、結果を出すことへの覚悟と執念だと思います。

何ごとも目標が高ければ高いほど、簡単に結果は出ません。空回りし、周囲から批判され、メンバーが離れていく。そんなつらい時期もあるでしょう。でも、絶対に逃げ出してはいけません。むしろその組織が一番大変で、誰もが逃げ出したくなるようなときこそ、リーダーの真価が問われるのです。

僕の場合、一番苦しかったのは就任3年目の頃でした。チームの成績がまったく奮わず、大学やOB、駅伝ファンから「やっぱり原じゃ駄目だ」と批判されました。いつクビを切られてもおかしくない、精神的につらい日々が続き、自分から申し出れば、辞めることもできたでしょう。でも、逃げずに踏ん張れたのは、それまで信念をもって取り組んできた、ぶれない軸をもっていたからです。

自分の肉体だけで勝負する陸上競技は、コンディションの調整が非常に重要です。なので、僕は最初の数年間、選手に規則正しい生活を徹底させました。プライベートなことにまで細かく口出しする僕に、反発した選手もいます。でも僕は、当時の青学には基本の徹底が何より大事で、粘り強く続けていけば、結果は必ず後からついてくると確信していたんです。

真に強いチームをつくるには、じっくり時間をかけ、土壌づくりから始めなくてはなりません。その作業は地味で、効果を数値化しにくいので、なかなか評価されづらい。でも基礎をしっかりつくらず、短期的な成果を追い求めても、いずれメッキははがれます。リーダーの仕事は短期的な成果ではなく、長期的な視点から評価すべきだと思います。

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メンバーとビジョンを共有し、常に未来志向で考える

リーダーは常に将来を見据え、長期的に物事を考えなくてはなりません。今は表面化していなくても、いずれ問題になりそうなことを察知し、的確に手を打っていく必要があります。そのためにはチームの雰囲気やメンバーの感情面など、目に見えないものを敏感に感じ取る感性が大事です。

時代はものすごい勢いで進歩しています。同じことを惰性で続けていれば、あっという間にライバルに追い抜かれてしまいます。陸上競技を例に取ると、最新の科学的知見やトレーニング法を取り入れていかなくてはなりません。箱根駅伝では、多くの選手が同じモデルの靴を履いていたというのも新たなトレンドの一つです。また青山学院大学陸上競技部では、インナーユニットという内側の筋肉を鍛える新たなエクササイズを取り入れています。こういった新しい試みにどんどん挑戦していく。リーダーには強い信念とともに、何ごとにも臨機応変に対応できる柔軟さが必要なのです。そのためには朝令暮改(ちょうれいぼかい)があってもいいと思います。

このようなリーダーの仕事は、目の前の課題に奮闘しているメンバーには理解されなかったり、反発されたりすることもあります。でも、その時点ではメンバーに嫌がられても、チームの未来のために必要なことなら、妥協してはいけません。もちろん、自分の取り組みを論理的に、ていねいに説明することは大切です。でもそれ以上に大事なことは、「この組織は何のために存在するのか」「10年後、20年後に自分たちはどのような姿を目指すのか」といった長期的なビジョンをメンバーと十分に共有することです。

最後に、最近は管理職やリーダー的な存在を避ける若者が多いと聞きます。確かにリーダーには重圧や苦労も多く、大変な面もあります。でもそれだけに、やりがいも大きい。メンバーと苦楽をともにし、互いに成長し、大きな目標を達成したときの喜びは、一人では味わえません。その喜びを、多くの人に味わってほしいと思っています。

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PROFILE

原 晋(はら すすむ)

原 晋(はら すすむ)

青山学院大学 地球社会共生学部 教授、陸上競技部 長距離ブロック 監督

1967年広島県生まれ。広島県立世羅高等学校を経て中京大学に進学し、全日本インカレ5,000mで3位入賞。卒業後は陸上競技部第1期生として中国電力(株)に進むも、故障に悩み競技生活から引退。1995年、同社で会社員として再スタートするが、2004年に長年低迷していた青山学院大学陸上競技部監督への就任話が舞い込む。契約3年目に箱根駅伝出場を逃し監督辞任のピンチを迎えたが、ビジネスで培ったプレゼン力で猶予を得て、2009年に33年ぶりの箱根駅伝出場。2020年の箱根駅伝では、大会新記録で5度目の総合優勝を果たし、再び頂点に返り咲く。主な著書に『フツ――の会社員だった僕が、青山学院大学を箱根駅伝優勝に導いた47の言葉』(アスコム刊)等。

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