重要なのは理論と感情の使い分け - 僕が考える理想の指導者像(原 晋さんコラム - 第3回)

僕が考える理想の指導者像

みなさん、こんにちは。原晋です。

このコラムでは、今までの指導経験などをもとに、今求められる理想の指導者とは何か、また指導者はどうあるべきかをテーマにお話しさせていただいています。第2回では、人材育成の方法などを通して、若い世代をどのように育てていくかについてお話ししました。

最終回は、僕が人を育て、組織を率いるうえで最も重要だと考える「チームメンバーとのコミュニケーション方法」についてお話しします。

コミュニケーションの基本は自分から本音を伝えること

今はどんな分野でも、スパルタ的な指導や命令で人を動かすことが難しくなっています。昔のやり方が通用しなくなり、世代ごとの価値観の違いも大きくなっています。そのような状況でメンバーとどう向き合い、指導していくべきか。悩んでいる管理職やリーダーも多いのではないでしょうか。

メンバーのためを思って一生懸命指導してきたつもりが、逆効果になったり、ときにはパワハラと受け止められたりすることもあります。そういった状況を恐れ、遠慮して本音を言えなかったり、距離感をとって当たり障りのない関係を続けたりしている人もいるようです。

でも僕は、上司部下の関係に限らず、コミュニケーションの基本は、まず自分から相手に本音を伝えることから始まると思っています。誰だって本音を言わず、何を考えているか分からない人には心を開きません。それで信頼関係が築けるわけがない。上司だから、年配者だからといって、変にかまえたり、当たり障りのないことを言おうとしたりする必要はないでしょう。まずは自分の経験を通して、自分が大切だと考えていることを、ストレートに伝えていけばよいのではないかと思います。

僕は自分の考えをしっかり伝えたうえで、メンバーとは常に対等な関係でいるよう心がけています。僕の意見への反論があれば、素直に耳を傾けます。そういった意見のなかに、チームにとってプラスとなる新しい発見があるからです。青山学院大学陸上競技部では自分の言葉で意見を言うこと、何でも本音で話しあうことを大切にしています。そのためにチーム内には体育会にありがちな上下関係をつくらず、監督にも先輩にも何でも言える雰囲気をつくってきました。

メンバーのことをよく知り、心の奥底の思いにも敏感に

メンバーが存分に力を発揮するには、その人の能力や適性にあった役割を与えなくてはなりません。難しい課題に挑戦しているときは、状況をしっかり把握したうえで、適切なタイミングで助言したり、励ましたりすることが大切です。そのためにも日頃からメンバーのことをよく観察し、よく知る必要があります。それこそリーダーの最も重要な仕事です。

この人は自分の頑張りをきちんと見てくれている。僕の苦しさを分かってくれている。そんな思いが、困難に負けない踏ん張りや、モチベーションにつながります。また今の若い人は、何ごともフェアであることを重視します。公平な評価をしないリーダーのことは信頼しないでしょう。

そのためには、メンバーとの日頃の会話が大切です。そのときの話題は何でもいいんです。僕の場合、部員が好きなアニメや芸能人のことなど、相手が話しやすいネタをこちらから振ってみたりします。そんな何げない会話から、意外と相手の本音やコンディションが分かることがあるのです。

今の若い世代は優等生が多く、不満があっても表に出さないことがあります。「分かりました」と口では言っても、腹の底では納得してないことがある。リーダーは、そんなメンバーの心の奥底の思いにも敏感でなくてはなりません。またどんなに話しやすい雰囲気をつくったとしても、上の人間に直接言えないことはあるでしょう。そこでメンバーの周囲に、何でも気軽に言える存在を置くことが大事です。青山学院大学陸上競技部でも、寮母をしている僕の妻や学生主務、マネージャーなどから、選手の悩みや本音を知ることはよくあります。直接的でも間接的でもコミュニケーションの輪を形成しておくことが、メンバーのメンタルを把握するために大切なことだと思います。

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理論と感情のバランス、ちょっとした言葉づかいが大事

今の若い世代は基本的に真面目で素直です。理屈をきちんと伝え、それに納得すれば、一生懸命頑張ります。逆に合理性のない根性論は通用しません。ただ、人は理論だけで動くものでもない。最後に人を動かすのは情です。なので、今の若者は、あえて感情を露わに強い口調で伝えたほうが、心に響く場合もあります。ものをはっきり言うリーダーへの憧れもあるようです。いずれにしろ理論と感情のどちらも求められていて、そのバランスが大事なのです。

怒るべきときは、しっかり怒っていい。ただ最後は必ず、未来志向の話で締めくくるべきです。単に「怒られた」と思わせては、落ち込んだり、反感を買ったりするだけです。怒られた部分を改善すれば、自分はもっと成長できる。そうアドバイスされたのだと、メンバーが前向きにとらえてくれるよう、話の順序や伝え方にも考慮する必要があります。例えば、僕は学生に対して「前向きな話をすることは良いことである」ということを長い期間かけて伝えています。その思いを根付かせるまでが大変ですが、そう継続して伝えることで自然体にポジティブな空気が醸成されます。ネガティブな伝え方をしても良いことは一つもありません。

またリーダーはちょっとした言葉づかいにも気を配るべきです。同じことを言うのでも、話の順番や表現方法を変えるだけで、伝わり方は大きく変わります。そしてどんなときも、前向きな言葉を使う。チームが困難に直面したとき、前向きな言葉で雰囲気を変えることも、リーダーの重要な役目です。

陸上競技はストイックで、忍耐力が求められる競技です。でも今の若者は、我慢を強いるだけでは力を発揮しません。つらい体験の先にどんな楽しいことが待っているのか。そこをしっかり伝えることが大事です。僕が毎年、「ワクワク大作戦」「ハッピー大作戦」などといったスローガンを掲げ、メディアに積極的に出てきたのも、陸上界を明るく、夢のある世界にしたかったからです。

おかげさまで青山学院大学陸上競技部のメンバーは、そんな僕の思いに応え、見事な結果を出してくれました。今の青山学院大学陸上競技部は僕が理想とする、僕がいなくてもメンバーが自立的に成長していく組織になっています。僕の考えていることが指導者を志している人、今まさに指導をしている人の指針となり、これからの日本社会を担うリーダーが続々と登場していくことを、何より楽しみにしています。

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PROFILE

原 晋(はら すすむ)

原 晋(はら すすむ)

青山学院大学 地球社会共生学部 教授、陸上競技部 長距離ブロック 監督

1967年広島県生まれ。広島県立世羅高等学校を経て中京大学に進学し、全日本インカレ5,000mで3位入賞。卒業後は陸上競技部第1期生として中国電力(株)に進むも、故障に悩み競技生活から引退。1995年、同社で会社員として再スタートするが、2004年に長年低迷していた青山学院大学陸上競技部監督への就任話が舞い込む。契約3年目に箱根駅伝出場を逃し監督辞任のピンチを迎えたが、ビジネスで培ったプレゼン力で猶予を得て、2009年に33年ぶりの箱根駅伝出場。2020年の箱根駅伝では、大会新記録で5度目の総合優勝を果たし、再び頂点に返り咲く。主な著書に『フツ――の会社員だった僕が、青山学院大学を箱根駅伝優勝に導いた47の言葉』(アスコム刊)等。

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