通話
無料

電話

お急ぎの方は、まずお電話ください。

0120-816-316

9:00~21:00(年末年始を除く)

キャンペーン実施中

インフレと金利上昇から考える日本経済の未来

森永 康平さんコラム - 第1回

良いインフレと悪いインフレ

コロナ禍以降、世界経済はインフレに悩まされてきました。日本でも昨年から物価上昇が続いています。日本はこれまで異例の低金利時代が続いていましたが、昨年は長期金利が上昇し、いよいよ金融緩和の解除も議論され始めています。現在の日本のインフレと金利上昇傾向は今後どうなるのか。企業や生活者はどう対応していくべきなのか。このコラムでは私の考えをお伝えしたいと思います。

今のインフレは政府や日銀が目指していたものではない

近年、世界をインフレが襲い、日本でも物価上昇が続いています。その要因は、コロナ禍で工場の生産がストップしたり、流通が滞ったりしたことで、世界的に物資の供給量が減ったこと。またロシアとウクライナの戦争により、原油などのエネルギー、食料や原材料の価格が上昇したことにあります。

日本の場合はそこに円安も大きく影響しています。日本はエネルギーも食料も、多くを海外からの輸入に頼っています。円安によって、輸入品の円建て価格が上昇したことが、国内物価の上昇につながっているのです。このように、現在の日本のインフレは旺盛な内需によって引き起こされたものではなく、あくまで外的要因によるものであることを理解しておく必要があります。また、海外に比べて日本のインフレ率が高くないのは、日本では長年、デフレ経済が続き、海外のようにコストが上がったからといって企業がすぐに値上げをできなかったからです。

ところで日本は長年、デフレに苦しめられてきました。そこで日銀は年率2%のインフレ目標を掲げ、それを実現するための低金利政策、つまり金融緩和を進めてきました。「目指していた目標が実現したのだから、むしろ今のインフレは歓迎すべきではないか」と考える人もいるかもしれません。実はインフレには、良いインフレと悪いインフレの2種類があり、現在の日本で起こっているのは悪いインフレの方なのです。

良いインフレとは、人々がより多くの製品やサービスを求めるため、生産量が追いつかず、値段が上昇していくケースです。このような需要をもとにしたインフレを、ディマンドプル型のインフレと言います。この場合は、値段を上げても製品やサービスはよく売れ、企業は儲かります。そのため給与が上がり、人々はさらにモノを買うようになる。そんな良い循環が生まれ、景気はどんどん良くなり、経済成長していきます。日銀や政府が目指していたのは、まさにこのタイプのインフレです。

もう一つ、悪いインフレとは、需要はないのにエネルギーや原材料などの生産コストが上がり、それを価格転嫁するかたちでインフレになるパターンです。こちらはコストが原因なので、コストプッシュ型のインフレと言います。今、起きているインフレは、まさにこのタイプです。需要がないのに値上げをすれば、製品やサービスは売れなくなります。よって企業は儲かりません。そもそも競争力のない中小企業は、コスト分の価格転嫁が難しいので、経営はますます厳しくなる。企業が儲からなければ、給与は上げられません。人々はますますモノを買わなくなります。そこでますます景気が悪くなる、というような完全な悪循環に陥ってしまうのです。現在のインフレは、まさにそのような危険性をはらんでいます。

大事なことは国民の給与を上げ、国内需要を増やすこと

コストプッシュで始まったインフレであっても、うまくやればディマンドプル型の良いインフレに転換することは可能です。そのうえで重要なのが、国内需要を増やすことです。そのためには、国民の給与を上げ、可処分所得を増やす必要があります。現在、物価を考慮した実質賃金は、20カ月連続のマイナスが続いています。事実上、給料が上がっていないのですから、人々がモノを買うわけがありません。逆に言えば、国民の給料を上げ、可処分所得を増やせば、物価が上がっても人々は製品やサービスを購入でき、企業は儲かります。その結果、さらに給与を上げられ、モノがさらに売れるようになる。そんな好循環が生まれるのです。

そのことは政府ももちろん理解していて、岸田政権は昨年から、企業に対して賃上げを要請しています。実際に昨年、大企業は30年ぶりの高水準となる賃上げを実施しました。でも、コストの価格転嫁が難しい中小企業の多くは利益が出ておらず、給与を上げるのが難しいというのも現実です。大企業が給与を上げるなか、人材確保のために無理して給与を上げている中小企業もありますが、そのような無理は長続きしないでしょう。日本の労働者の7割は中小企業で働いているわけですから、今のインフレを良いインフレに転換するうえでは、中小企業の賃上げを実現できるかどうかが大きな鍵となります。

とはいえ、現在の国内消費の冷え込み、中小企業を取り巻く経営環境を見ると、私は中小企業の賃上げは難しいのではないかと考えています。そうなると、政府が何らかの手を打つしかありません。その方法としては、消費税減税、社会保険料の減免、現金給付の三つがあります。これらの政策を行うことで、国民の可処分所得を増やす。つまり実質的に、国民の給与を上げることが大事です。

このようなことを言うと、必ず「財源はどうするんだ?」と批判する人がいます。でも国は本来、限られた財源をどう分配するかで頭を悩ませるのではなく、いかに国を成長させて供給能力を増やすのか、どのようにして国内にあるリソースを最大活用するかを考えるべきです。どうしても財源を増やしたいのであれば、国が積極的に財政出動し、経済を成長させていくしかありません。景気を良くするための国債発行を、国がためらう必要などありません。このあたりについては私の本『「国の借金は問題ない」って本当ですか?』に詳しく書いているので、ぜひ一度、読んでいただきたいと思います。

再びデフレに陥るか、今年が日本再生の大事な分かれ道

私は2022年4月に『スタグフレーションの時代』という本を出しました。その本で、「日本は今のままだと景気が悪い状態で物価だけが上昇する最悪の状態、スタグフレーションの時代を迎える」と書きました。残念ながら今の日本は、そのような状態に向かいつつあります。またこの本では、スタグフレーションになった後、政策を誤ればデフレに戻ると予言しています。この予言については、「これだけ世界がインフレだと騒いでいるのに、いまだにデフレを懸念しているのはおかしい」と批判されました。でも今の日本の現状を見ると、私の主張はあながち間違っていなかったと感じています。

現在、世界のインフレはすでにピークアウトしつつあり、原油価格も執筆時点では1バレル70ドル割れ目前まで下落しています。よって今年は日本でも、物価上昇は収まるのではないかと私は考えています。実際、企業間で売買される物品の価格変動を示す企業物価指数は、最新のデータでは前年同月比±0%。中国は今、消費者物価指数も生産者物価指数もともにマイナスとなり、デフレに陥っています。日本の最大の貿易国、中国から輸入されるモノの価格が下がっていることは、日本への大きなデフレ圧力となるでしょう。

さらに今後、もし日銀が金融緩和を解除し、金利を上げ、逆にアメリカが利下げを行えば、日米の金利差は縮まります。すると為替は円高に動き、円高になれば今までとは逆に、輸入品の価格が下がる可能性があります。そうなれば、日本がデフレに逆戻りしてもおかしくありません。

私は今、日銀が急いで金融緩和をやめる必要はまったくないと考えています。経済学の教科書的には、インフレ率が上がったとき、対策として金利を上げることはセオリーです。金利を上げれば、借り入れをしてモノを買ったり、設備投資をしたりすることが難しくなる。つまり金利を上げることで、消費と設備投資を抑え、物価を抑えようとの発想です。でも今、起きているインフレは、必ずしも国民がモノを買ったり、投資したりする意欲が高いために起きているわけではありません。よって金利を上げたところで、状況は何も変わらないでしょう。短期金利を上げれば、住宅ローンの変動金利の支払い負担が増え、その結果として消費が冷え込めば、それもまたデフレ要因となるのです。

今、日本が一番気をつけなくてはならないのは、再びデフレに戻ることを防ぐことです。この最悪のシナリオは、どんな手を使ってでも避けなくてはなりません。日本には、いまだにデフレの恐ろしさを知らない人が多いです。デフレとは物価が下がり、企業の利益が減り、給与が下がり、ますます物価が下がっていく。国全体がどんどん貧しくなっていく、まさに負のスパイラルです。日本はそんなデフレからなかなか脱却できず、失われた30年という長期の景気停滞が続き、国際競争力は世界35位にまで落ちてしまいました。いずれにしろ今年は、日本が30年続いたデフレから脱却し、良い景気循環に転換できるかどうかの岐路となる重要な年です。そのうえで、個人や企業にできることには限りがあります。政府や日銀には、ぜひ日本を絶対にデフレには戻さないとの強い決意のもと、適切な政策を期待します。

PROFILE

森永 康平

森永 康平(モリナガ コウヘイ)

経済アナリスト、株式会社マネネCEO

1985年埼玉県生まれ。証券会社や運用会社にてアナリスト、ストラテジストとして日本の中小型株式や新興国経済のリサーチ業務に従事。業務範囲は海外に広がり、インドネシア、台湾などアジア各国にて新規事業の立ち上げや法人設立を経験し、事業責任者やCEOを歴任。日本証券アナリスト協会検定会員。経済産業省「物価高における流通業のあり方検討会」委員。著書は『親子ゼニ問答』(KADOKAWA)、『スタグフレーションの時代』(宝島社)など多数。

  • ※この記載内容は、当社とは直接関係のない独立した執筆者の見解です。
  • ※掲載されている情報は、最新の商品・法律・税制等とは異なる場合がありますのでご注意ください。
  • 2024年版 最も選ばれた保険ランキング
  • パパっと比較して、じっくり検討。ネット生保もカンタン比較!
×
閉じる ×

総合窓口

9:00~21:00(年末年始を除く)

相談予約専用窓口

9:00~21:00(年末年始を除く)