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世界が広がる生き方をしよう

林 周作さんコラム - 第2回

迷ったら「挑戦」を選んでみる

突然だが、私の親指の第一関節には『仏眼』という手相がある。仏眼には、ご先祖様のご加護のもと、危険から回避してくれる力があるそうだ。振り返ると、トルコで原因不明の皮膚病にかかり顔全体が腫れ上がってもすぐに医者を紹介してもらえたし、インドで高熱が出た時もそう。深夜にパレスチナとヨルダンの境界線を歩いて渡っても無事だった。だから今後例えばアフリカを縦断しても、アマゾンの奥地を旅しても、無事に帰還することができるだろう。

挑戦するか否か、それが問題だ

仏眼一つにそんな力があるかは置いておいて、そのマインドセットのおかげで、何が起こっても何とかなるだろう、という心構えが私にはある。そうでなければ、たった1700ユーロ(約21万円)程の所持金でフランスから自転車で日本に帰ろうとはしない。エチオピアで泣く泣く生の牛肉を食べた時も「よく噛めば寄生虫は殺せる」くらいの気持ちで食事をしていた。

フランスのぶどう畑で働いていたころ、沢山のぶどうが生っている中、稀に明るい紫色のカビが付いているぶどうがあった。食べて良いものかは少し悩んだが、口に入れてみる。するとそのカビは乳酸菌のような甘酸っぱい味で、ぶどうのみずみずしさと相まって、なんとも美味しかった。もしこの時私が「お腹を壊すかも……」と手を伸ばさずにいたら、その美味しさに気づくことはできなかった(後で知ったが、カビによってぶどうの糖度が高まり、芳醇な香りを帯びたワインができるそう)。

これは、海外でお菓子を食べる際にも共通している。例えば、ペルーのお菓子屋で無難に“チュロス”を選ぶか、聞いたことのない“ススピロアラリメーニャ”を選ぶか。そんな“小さな挑戦”から世界は広がるのだ。

自分自身、フランスでの生活や自転車旅は、確かに“挑戦”ではあった。フランスで家や仕事を探すのも初めてだったし、40kgもの荷物を積んで自転車を漕いだことも、もちろん無い。しかし、そんな“不安”と“好奇心”を天秤にかけると、答えはいつも明白だった。やるかやらないか、大体のことは機会損失の方がリスクだ。挑戦には覚悟がいるかもしれないが、思い立ってしまったらやらなきゃ損なのだ。

“ない”から広がる世界

フランスを自転車で出発した時の所持金は、1700ユーロ。1年半で帰国できる概算でそれを日割りすると、1日あたりの費用はたったの3.1ユーロ(約380円)しかなかった。改めてその数字を見ると「冷静に考えろ」と、過去の自分に言いたくなってしまう。ところが、380円では何もできないと思いきや、想像もできないような体験が待っていた。

旅の宿泊先は、スケッチブックを片手に現地の家庭を一軒一軒周り、直接交渉した。すぐに見つかることもあれば、何時間もかかり夜中になってしまうこともある。恐怖は無いのかと聞かれたら、答えは否。現地の生活を知れるまたとない機会に、ワクワクする気持ちしか持ち合わせていなかった。

宿泊先交渉用のスケッチブック

ただ、お金は無い。だから、自分にしかできないことに価値を感じてもらうしかないと考えた結果、それは“和菓子”だった。アジア食材店で買い込んだタイ産の米粉や小鍋、せいろを武器に、宿泊先の家庭で提供しながら旅をしたのだ。実のところ、和菓子は作ったことが無かったのでクオリティはさておき……この和菓子ショーは大変好評で、いつも喜んでもらえた。

最初に泊まらせてもらったスイスの家庭で驚いたのは、晩御飯。テーブルにシリアルやトースト、ジャム、チーズが並んでいたのだ。その光景はまさに朝食のようだったが、これはカルテスエッセン(冷たい食事)と呼ばれる、スイスでは一般的なディナーだと教えてくれた。朝夕の食事は軽く済ませ、昼食をしっかりと取るのがその土地の文化だという。一夜限りの交流ではあるが、そこで現地の郷土菓子の作り方や暮らしのことを教えてもらうことも多く、ホテル泊では決してできない体験を重ねることができた。私は毎日、誰かに伝えずにはいられないような貴重な出来事を、SNSで発信し続けた。

スイスの晩御飯

なせばなる?

旅の道中で盗難にあったこともあり、ジョージアという小さな国に滞在中、結局資金は尽きてしまった。ジョージアはビザなしで1年間滞在できる珍しい国で、ヨーロッパとアジアの分岐点であり、ロシアとトルコの間という立地から、独特の食文化があった。そして、ワイン発祥の地という点も欠かせない。そんな魅力的な場所だったので、いっそのことジョージア料理店で働かせてもらい、資金が貯まったら旅を再開するという計画を立てた。思いの外スムーズに雇ってもらえることになり、店の料理を味見すると、味も良い。これはまた良い体験ができる、と期待したのも束の間「給料は払わないから」と一言。あくまで修業というスタンスだったので、この計画は1日で崩れた。

次はジョージアの“チュルチヘラ”という郷土菓子を現地で仕入れ、日本で販売する計画を立てた。チュルチヘラはぶどうとナッツを使った棒状のお菓子で、市場へ行くと大量にぶら下がっている。市場のチュルチヘラは農家さんがそれぞれで作っており、クオリティは安定していなかった。ところが、スーパーマーケットで売られている量産型チュルチヘラが意外にも美味しく、これなら日本にも届けられると確信。実際にFacebookで募集をかけてみたところ150本くらいのリクエストが入った。ところが、コストや食品の輸入手続きの手間が想像以上で、これもお蔵入りとなってしまった。

ジョージアの市場

最終的には、情報発信していたウェブサイト内でスポンサーを募集し、結果60万円以上の資金が集まり、旅を続けることができた。

人それぞれ、挑戦してみたいこと、変えたいことはあると思う。お金や時間はできない理由になりやすいけど、環境を変えてみると、意外とすんなりできたりもする。今後の人生で今日が一番若い日なので、何をするにも遅いことはない。失敗するリスクばかりに目を向けず、「何が起こっても何とかなるだろう」というマインドセットで挑戦してみると、必ず素晴らしい発見が待っているはずだ。

レシピ
「チュルチヘラ(ジョージア)」

ジョージアの郷土菓子「チュルチヘラ」
材料
ぶどうジュース(100%ストレート)…2L
薄力粉…120g
クルミ(160℃のオーブンで8分焼く)…75g
  1. (1)糸を通した針でクルミをつなげ、10cmの長さにする。20本作る。
  2. (2)ぶどうジュース1Lを鍋に入れ、半量になるまで煮詰める。
  3. (3)残りのぶどうジュース、ふるった小麦粉を加え、泡だて器で混ぜながら加熱する。
  4. (4)とろみがついたら、火からおろす。
  5. (5)(1)のクルミを浸し、ぶら下げて乾かす。これを2~3回繰り返し、数日乾燥させれば完成。好みの厚さにスライスして食べる。

PROFILE

林 周作

林 周作(ハヤシ シュウサク)

郷土菓子研究社代表、菓子職人

1988年京都府生まれ。2008年にエコール辻大阪のフランス・イタリア料理課程を卒業。世界の“郷土菓子”の魅力にとりつかれ、各国のお菓子を実際に食べ、味を伝える菓子職人に。2012年6月から約2年半をかけ自転車でユーラシア大陸を横断。2016年7月に東京・渋谷に、旅で出会った世界の郷土菓子を提供するBinowa Cafeをオープン。これまで『THE PASTRY COLLECTION』(KADOKAWA)など3冊の本を上梓。今も各国を訪れてはその土地の郷土菓子を研究し、その数500種以上、訪れた国は50カ国を超える。

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