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林 周作さんコラム - 第3回

一度決めたことを「継続」する

郷土菓子研究社のこの10年余りは、まさにまっさらな土地に道を作って旅をする感覚だった。自分の“好き”や“ワクワク”の赴くままに進んでいると、気づけば知らない道も随分進むことができていた。それは郷土菓子研究社のスタッフや応援してくれる知人、お客さん、旅先で出会った人達、様々なサポーターがいてくれていたからにほかならない。旅中は「こんなに面白いモノを誰にも伝えないのはもったいない」という精神で、私はただただ“世界の郷土菓子”に触れ発信を続けていただけなのだが、気づけば誰かに支えられていた。

海を越えるとそこは…

アゼルバイジャンからカスピ海を船で渡ると、中央アジアへ突入する。海を越えるだけで、それまでの中東系から、一気にアジア系の顔立ちに変化したことには驚いた。お菓子と合わせる飲み物も、トルコ辺りまではコーヒーも飲まれるが、ウズベキスタンまで来るとコクチャイと呼ばれる緑茶が多くなり、ミルクティーに粟を入れる独特な飲み方も体験できた。また、湯飲みにそっくりなもので飲まれるのも面白い。一気に日本がグッと近付いたような感覚になったのを覚えている。

お茶とパフラヴァ(お菓子)

ウズベキスタンでは、とある親族にお世話になった。私の旅に興味を持ってくれた方が、隣町に着いたら彼に、その次は彼、その次は……と、これから進む先に住む親戚を次々と紹介してくれたのだ。町と名前と電話番号がずらりと並んだリストだけを受け取り、次の町へと自転車を走らせる。到着すると、話がどこまで伝わっているかも全く分からないまま、言われた通りに電話をかけてみた。すると「話は聞いている」電話口の男は決まってこう答えるのだ。その後、羊肉とウォッカの並ぶ宴会場で待ち合わせをするのがお決まりのコース。そんな夜が続き、言うまでもなく連日二日酔いの身体で次の町へと進むのだった。

中央アジアの人々は親切で「人を助ける」精神が根付いている。それは宗教的な思想からくるもので、年長者や女性には特に優しい。私は民泊をしていたこともあり、現地の人々にも大いに助けられた。泊めてもらった新婚夫婦から、チャクチャクと呼ばれるおこしに似たお菓子を教えてもらったこともある。家でも気軽に作って食べられる、このエリアではおなじみの郷土菓子だ。結局その夫婦には、奥さんの田舎でも歓迎を受け、約2週間もお世話になったことは忘れられない。

小さなことからコツコツと

今は昔、桃太郎が鬼退治に向かう途中、仲間が付いてきたのは必然だったと私は思う。誰もが恐怖するあの鬼に立ち向かうという無謀な挑戦に、仲間も最初は見向きもしなかったかもしれない。しかし、鬼退治にむけてコツコツとトレーニングを重ねる桃太郎の姿が、彼らの心を動かしてゆくのだ。きっとキビ団子に頼らずとも、桃太郎の意思に賛同し、手を貸そうとしてくれていたと思う。

私も「自転車でユーラシア大陸を横断する」という無謀とも思える挑戦をしていたが、実は活動自体は至ってシンプルだった。海外の訪問先でその土地の郷土菓子を食べ、情報を発信し、帰国後にそれを作る。ただそれだけなのだ。しかし、まさに継続は力なりで、異常なまでに食べ続け、ずっと発信し続けてきたからこそ、ひとつひとつのお菓子の価値が複利的に上がり、興味を持ってくれる人は増えていった。海外旅行でお菓子を食べて帰ってくる、ただ一回のそれだけでは何の賛同も得られなかっただろう。

私は旅で出会った体験を、紙媒体で発信しようと決めた。紙のアナログな感じが、“郷土菓子”という素朴な存在と親和性が高いと考えたからだ。そこで、日本の雑誌社や新聞社に旅の企画を説明し、コラムや連載を書きながら旅をする計画を提案。ところが、それまで何の実績も持たなかった20歳そこそこの私は、当然全く見向きもされなかった。SNSのフォロワーも150人程度だったのだから仕方ない。

それならば自分で作ろうと、両面1枚のフリーペーパーを作ることに。“THE PASTRY TIMES”と題し、現地から、採取したての新鮮な情報をお届けする。最初はフリーソフトを使い作った洋新聞風のものだったが、この出来上がりがなかなか評判も良い。日本にいる知人にデザインをブラッシュアップしてもらい、念願の情報発信の場が完成した。食に関心が無い人にも興味を持って読んでもらえるよう、お菓子にまつわる物語も展開。初号は500部を発刊し、知り合いのカフェやレストラン、ギャラリーなどに設置をお願いした。こうして結局、旅の始まりから終わりまで、毎月10日は“THE PASTRY TIMES”の発刊日となった。最初は誰が読んでくれるかも分からなかったが、次第に設置店舗やスポンサーが増えはじめ、帰国する頃には発行部数は3000部にまで増えていた。

何事も1日にして成らず

「本を出してみない?」旅の途中、とある編集者からもらった一言だ。毎月発刊していたフリーペーパーが面白いと、出版社に掛け合ってくれたのだ。その後、旅にまつわる本を3冊出版。何者でもなかった私だが、ひとつひとつを続けていれば、見てくれている人は必ずいる。

今となっては誰もが簡単に情報発信できる時代だ。私の場合、それは世界の郷土菓子だったが、誰もが何かのスペシャリストになれる。ただ「最初の一歩は驚くほど小さい」ことは忘れてはいけない。最初から成功する人なんていないのだ。

そんな小さな一歩でも歩き続けられた一番の理由は、一切の損得勘定なく、なにより楽しんで活動してきたからだろう。仕事となるとどうしても金銭が絡んでくるが、それは置いておいて、自分の素直な感情に問うてみるのが、小さなことを継続するコツかもしれない。

“自転車でユーラシア大陸横断”など、テーマを作るのも良いだろう。私は、2019年は“六大陸制覇”を目標に掲げ、11カ国23都市に訪れた。実は2020年は“世界一周”と決めていたのだが、これはコロナで延期になってしまった。いつか必ず挑戦し、実現させたいと思っている。

ヒバの景色

レシピ
「チャクチャク(ウズベキスタン)」

ウズベキスタンの郷土菓子「チャクチャク」
材料
A薄力粉…230~250g
A塩…少々
A重曹…少々
A卵…100g
Aウォッカ…大さじ1
A水…大さじ1
ハチミツ…100g
グラニュー糖…60g
強力粉(打ち粉)…適量
揚げ油…適量
  1. (1)Aの材料をボウルに加え、よくこねる。薄力粉の量は耳たぶの固さを目安に調整する。ラップにくるみ30分間休ませる。
  2. (2)打ち粉をしながら生地を麺棒で1mm厚に伸ばし、1cm角の正方形にカットする。
  3. (3)カットした生地を熱した油で少量ずつ揚げ、ほんのり色付いたら油を切り、ボウルに入れておく。
  4. (4)ハチミツ、グラニュー糖を鍋で熱し、揚げた生地の入ったボウルに加えて混ぜ合わせる。
  5. (5)小皿にこんもりと盛り、粗熱が取れたら出来上がり。

PROFILE

林 周作

林 周作(ハヤシ シュウサク)

郷土菓子研究社代表、菓子職人

1988年京都府生まれ。2008年にエコール辻大阪のフランス・イタリア料理課程を卒業。世界の“郷土菓子”の魅力にとりつかれ、各国のお菓子を実際に食べ、味を伝える菓子職人に。2012年6月から約2年半をかけ自転車でユーラシア大陸を横断。2016年7月に東京・渋谷に、旅で出会った世界の郷土菓子を提供するBinowa Cafeをオープン。これまで『THE PASTRY COLLECTION』(KADOKAWA)など3冊の本を上梓。今も各国を訪れてはその土地の郷土菓子を研究し、その数500種以上、訪れた国は50カ国を超える。

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