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流転の時代をどう生きるか

成田 悠輔さんコラム - 第1回

仕事がアイデンティティになりづらい時代?

リモートワークにおける仕事への愛着やプライド

働き方改革の旗印のもと、大企業を中心に長時間労働の削減や育児休暇取得の促進、時短勤務やフレックスタイム制の導入といった、個人が働きやすくなるための施策が進められています。リモートワークもその一つですね。これまで日本ではなかなか普及しなかったものの、コロナ禍という偶然で一気に広がりました。

リモートワークは次の時代を象徴する入口になるかもしれません。私たちが仕事や職業に生きる意味やアイデンティティを感じにくくなる時代です。言うまでもなく、仕事や職業には、生活費を稼ぐという経済的な側面があります。ただそれと同じくらい、仕事や職業を持つということは、人に生きがいや社会の中での存在意義を感じさせるという精神的な側面もあります。だからこそ、経済的にはまったく働く必要がない億万長者でも、わざわざ時間と労力を割いて仕事をするのです。

ただ、異国の地にあることやディスプレイの向こう側にあることはどうしても他人事になりやすい。私自身も日米でリモート仕事をしていますが、アメリカにいるときは日本のことはどうでもいいと感じがちですし、逆もまたそうです。目的や手続きの決まった作業を淡々とこなす分には、リモートワークは便利です。でも、その仕事に、本質的な愛着やプライドを感じたり、目的や意味を添加するのは難しい気がします。リモートワーク時代には、家族や遊びと比べて仕事にアイデンティティを感じることが難しくなっていくのではないかと思うのです。

私がこう感じるのは、対面で仕事を進めることが基本だった時代を生きてきた老人世代だからかもしれません。最初からリモートワークが当たり前の今の20代前半以降の世代では、リモートアイデンティティとでもいった新たな仕事や会社に対する感情が芽生えてくる可能性もあります。リモートアイデンティティ醸造に挑んでいるのが、コロナ禍で創業したスタートアップなどでしょう。

組織への所属がアイデンティティだった正社員、それを支える雇用法制

日本の古い企業ではリモートワークの普及が進まず、今再び対面へ揺り戻しが起きていると言われます。その理由の一つは日本の産業構造でしょう。工場のように物理的な物を扱ったり、レストランのように対人サービスを提供したりする仕事は、すぐにはリモートにしようがありません。製造・建設業とサービス業が占める割合が大きい日本は、リモートワークと相性が良くない国なのだと思います。

加えて、雇用法制と一体化した企業組織・雇用契約の形が拍車をかけていると思います。

よく「日本人は会社組織に所属していること自体にアイデンティティを感じている人が多かった」と言われます。毎日、満員電車に揺られて会社に行き、職場のメンバーと同じ場所と時間を共有する。会社という共同体に浸かることで「この社会に存在してもいいんだ」という感覚を得る。日本の会社員の多くは長らく、そのようなかたちで仕事のやりがいや存在意義を確立してきたと言われます。聞き飽きた話でしょう。

これはただの気分や文化の問題だけではなく、雇用法制と結びついています。会社側も正社員をクビにすることが難しいので、存在意義を感じられず不貞腐れて周りに害をもたらすガンのような存在になられては困る。だからなんとなく出社してなんとなく会議に出席しているだけの社員に、それだけで存在意識を感じてもらうのが理にかなっているのです。そんな日本社会では、個人側から見ても企業側から見てもリモートワークが進みにくいのは自然だと思います。

もう日本はメンバーシップ型社会ではない

ただ、こうした日本の文化や制度も崩れつつあります。今や日本の労働者の40%近くが非正規雇用です。派遣労働者はメンバーシップ型ではなく、ジョブ型労働の典型とも言えます。「日本企業はメンバーシップ型だ」という言説は、大企業の正社員を中心とした少数派にしか当てはまらなくなりつつあります。そして、契約や派遣を中心とする「報われないジョブ型」へ移行しているがゆえに、リモートワークが普及しにくくなっている可能性もあると考えています。非正規や派遣だと会社に対する交渉力が弱いため、コロナ禍だろうがなんだろうが、「オフィスに来い」と言われれば、従わざるを得ないからです。

リモートワークとともに、最近では大企業で副業や兼業を解禁する流れがあります。単純に選択肢が増えるという意味では、いいことでしょう。ただ現実には、副業や兼業ができることがメリットにつながる人は、ごく一部だと思います。そもそも本業で納得がいかない、十分に稼げていない人が、副業や兼業で巻き返せるとは思えません。報われない理想を抱いて、すべてが中途半端な人をつくりだすことになる危険性もあります。

次回は、このように変化の大きい時代をどう自分らしく生きていくかということついて、お話しします。

PROFILE

成田 悠輔

成田 悠輔(ナリタ ユウスケ)

イェール大学助教授、半熟仮想株式会社代表

専門はデータ・アルゴリズム・ポエムを使ったビジネスと公共政策の想像とデザイン。ウェブビジネスから教育・医療政策まで幅広い社会課題解決に取り組み、多くの企業や自治体と共同研究・事業を行う。報道・討論・バラエティなどテレビをはじめさまざまなメディアの企画や出演にも関わる。東京大学卒業(大内兵衛賞受賞)、マサチューセッツ工科大学(MIT)にてPh.D.取得。一橋大学客員准教授、スタンフォード大学客員助教授、東京大学招聘研究員、独立行政法人経済産業研究所客員研究員などを兼歴任。内閣総理大臣賞、MITテクノロジーレビューInnovators Under 35 Japanほか多数受賞。著書に『22世紀の民主主義』など。

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