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マッチング理論が目指す未来

小島 武仁さんコラム - 第1回

社会問題の原因は人ではなく、「制度」

企業の人事や大学の入学試験、保育園への入園など、私たちの人生を左右する重要な局面で、さまざまなミスマッチが起きています。そのようなミスマッチによる不幸をなくし、世の中の人と人、人とモノや組織を最適なかたちで結びつける。そこで有用なのが、「マッチング理論」です。このコラムでは、マッチング理論とはそもそもどのようなものか。それによってどのような社会課題を解決できるのか。そんな話から始めたいと思います。

「内定トラブル」や「配属ガチャ」など、ミスマッチの不幸をなくすために

私はスタンフォード大学で経済学の新しい分野「マーケットデザイン」を研究していました。マーケットデザインとは、限られた資源や人を最適なかたちで配分し、活用するための社会制度の設計を考える学問です。そのなかでも、私はとくに人と人、人とモノや組織を最適に組み合わせる仕組みについて研究する、「マッチング理論」を専門にしていました。現在は日本に戻り、東京大学マーケットデザインセンターの所長として、企業や自治体と連携し、マッチング理論の社会実装に取り組んでいます。

世の中には、マッチングがうまくいっていないことで生じる不幸が多々あります。例えば就職です。就職活動をしている学生が、第二志望の会社からの内定を受け入れた後、第一志望の会社から内定が出ることはよくあります。そのため、本当は入れたはずの第一志望の会社に入れなかったり、内定辞退などによるトラブルになったりすることがあります。これらは、ミスマッチによる悲劇の典型です。また、高校生の就活では、基本的に一つの企業にしか申し込みができないという仕組みになっています。マッチング理論を取り入れることで、同時に複数の第一希望を出せるようになるなど、ミスマッチが起きやすい現状を改善していける可能性があると思っています。

最近は「配属ガチャ」という言葉もよく耳にします。せっかく入った会社にも関わらず、希望の職種や部署に配属されず、やる気を失ったり、自分の能力を発揮できなかったりする。このような問題はよくあります。昔の日本企業は会社都合で一方的に配属先や転勤を決め、社員もそれに従うのが普通でした。しかし、終身雇用が崩壊した今、そのようなやり方では、有能な人材はどんどん流出してしまいます。少子高齢化が進み、人手不足が深刻な日本では、企業が適切な人材配置をし、離職率を下げることが何より重要です。この点においても、マッチング理論は大いに貢献することができます。

その他にも、希望する保育園や小学校に入るのが難しい。災害時の救援物資を適切に配布できない。コンサートチケットや人気商品が転売目的で買われ、必要な人に行き渡らない。このような問題も、マッチング理論を活用することで改善することができます。

資本主義と社会主義のいいところを取り入れるマッチング理論

現在のマッチング理論は、1962年にD・ゲールとL・シャプレーが書いた論文から始まりました。その論文で提唱されたGSアルゴリズムは、アメリカではすでにさまざまな分野で社会実装されています。研修医の配属先の決定や移植のための臓器提供の仕組み、学校の選択や入試などに、マッチング理論をベースにした制度が採用されています。私は2012年にノーベル経済学賞を受賞したアルヴィン・ロスとともに、そんなマッチング理論の社会実装について研究していました。

そのような経験を活かし、現在は日本でマッチング理論の社会実装に取り組んでいるわけですが、日本での取り組みはまさに始まったばかりです。とはいえ、すでに多くの企業や自治体が強い関心をもち、実際にさまざまな社会実装プロジェクトが進んでいます。実は、日本はマッチング理論と非常に相性のいい国なんですよ。資本主義の国でありながら、平等や公平性を重視した社会主義に近い制度や規制が多いからです。

マッチング理論はある意味で、「資本主義と社会主義のいいとこ取り」をするものです。資本主義の良いところは、市場における売買価格によって、需要と供給のバランスが調整されることです。とはいえ、市場はときに暴走し、格差や不公平も生みやすい。よって、ある程度の介入や規制も必要です。移植のための臓器提供など、倫理的な問題から市場での取引にそぐわないものもあります。

実際、公平性が大切な教育や医療において、ほとんどの国は市場原理を導入していません。日本でも保育園は料金が一律で、お金をたくさん払えばいい保育園に入れる、といった仕組みにはなっていません。このような市場原理が働かない分野では、価格による需給調整が行われないため、需要に対して供給がまったく間に合わない、といったこともよく起きます。以前、「保育園落ちた日本死ね!!!」との投稿が話題を集めた待機児童問題はその典型です。また、このように行政側が一方的に分配を決める仕組みでは、さまざまな事情を抱える人々の要望をかなえにくいのも現実です。

マッチング理論では、個人の希望やインセンティブを考慮したうえで、擬似市場的な機能を構築し、アルゴリズムによってマッチングを行います。保育園の場合であれば、待機児童の数や入所児童の希望順位をデータ化し、子どもが入れる保育園のなかで最も希望順位が高いところに決まるようにします。もちろん、すべての人の希望を100%かなえるのは難しいのですが、少なくとも全員が納得感を得られる透明性の高い仕組みを目指します。

また、現在の資本主義は、過度な競争による資源の無駄遣いや大量のCO2の排出、格差の拡大が大きな問題となっています。そのような資本主義の負の側面を解消し、アップグレードするうえでも、人や資源を無駄なく分配するマッチング理論は大きく貢献できると考えています。

個人に我慢や理不尽な努力を強いないために、制度を改善する

もう一つ、私はマッチング理論やマーケットデザインの根底には「制度を憎んで人を憎まず」という発想があると感じています。日本人は制度自体に欠陥があっても、現場の人間が奮闘してなんとか乗り切ってしまう傾向があります。コロナ禍で保健所が行っていた感染者の把握や医療機関の割り振り、ワクチン接種などではとくにそのことを強く感じました。もし、マッチング理論に基づく制度や仕組みが整っていれば、あのような現場の負担はもっと抑えられたはずです。

現在、日本の保育園は、親の勤務形態や家族構成などを基準に決めた点数を元に、入れる保育園を自治体が決めています。そのため、本当は時短勤務なのにフルタイム勤務だと嘘の申請をする親が現れる、といった問題もあるようです。ただ、私はこのような問題も、嘘をつく親を責めるのではなく、できるだけ多くの人が希望の保育園に入れるような制度を整えることのほうが大事だと思います。

何か問題が起きたとき、原因を人に求めるのではなく、制度や仕組みを改善することで、問題解決を目指す。今ある制度をただ我慢して受け入れるのではなく、みんなが得をして、みんなが幸せになる仕組みへ改善していく。そのような発想は日本の未来にとって非常に重要であり、その点でマッチング理論は大きく貢献できると考えています。

PROFILE

小島 武仁

小島 武仁(コジマ フヒト)

東京大学大学院経済学研究科教授、東京大学マーケットデザインセンター センター長

1979年東京都生まれ。東京大学経済学部経済学科を卒業(卒業生総代)。ハーバード大学でPh.D.(経済学専攻)取得後、イェール大学コウルズ財団博士研究員、コロンビア大学経済学科客員助教授、スタンフォード大学経済学部教授を経て、2020年9月より現職。研究分野はマーケットデザイン、マッチング理論、ゲーム理論。学外においては、経済同友会代表幹事特別顧問、Econometric Society終身会員などを務める。

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