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岸田政権がとるべき、対米対中戦略

三浦 瑠麗さんコラム - 第3回

バイデン政権をどう評価するべきか

バイデン政権は、いま重要な局面にあります。今年は中間選挙が控えており、国内圧力が高まる年です。そんな中、バイデン大統領はアフガニスタン撤退や議会で思うように政策を通せないなどの問題に苦しみ、内外の影響力を低下させています。

対中政策では北京五輪の外交的ボイコットが喧伝されていますが、それは人々の注目を集める打ち上げ花火のようなものにすぎず、対立の激化から一定の緩和に踏み出す転機の到来が予測されます。2022年は選挙イヤーということもあり、トランプ政権が取り付けた米国産農産物の輸出拡大などの約束を中国に守らせつつ、一定程度譲歩を行う可能性が捨てきれないと考えられます。バイデン政権は最近成立したウイグル強制労働防止法をはじめ人権外交にも力を入れていますが、少数の企業には大きな影響が予測されるものの、多くの企業にとって実際の運用面ではそこまで大きな影響がないように設計されているという見方も可能です。

バイデン政権は、米中対立については米国政界のコンセンサスに基づいて動いています。ブリンケン国務長官が、「自身を含め、左右を問わない歴代の米国政権は、中国を国際社会に取り込めると勘違いしていたと後悔している」と証言したように、オバマ政権中期までの対中認識とは全く違うということです。しかし、その対立がいったいどこまでヒートアップするのか、経済に与えるダメージはいかほどのものかということについては不確実性が大きい。もしも、米国が経済では先端技術や米国産業を守りつつも関係は維持し、安全保障における中国の抑えつけに注力するのならば、一定の間隔で軍拡や対立の激化と信頼醸成を繰り返すはずです。

その場合、日本の役割とは何でしょうか。理想から言えば、かなり大きく複雑な役割が期待されていると思います。一方では、日本は米軍のグローバル展開の拠点かつ極東の防衛拠点として、抑止力強化に資するべき立場にいます。他方で、日本は米国と中国の橋渡しをしたり、独自外交をしたりする余地がある立ち位置にいます。前者は防衛、後者は外交ですが、どちらかではなく両方が必要になる。そして後者は、前者の努力を前提とした上ではじめて成り立つのだという認識を持つことが必要かと思います。

日本外交は長らく受け身であると言われてきました。とりわけ、安全保障や国際政治に携わる者に深いトラウマを残したのが、1991年の湾岸戦争でした。ちょうどこの時期の外交文書が公開されたところですが、そこからもわかるように、日本は米国が何を要求してくるのかに身構えつつ、自ら積極的に提案しなかった。日本側から見れば、巨額の資金協力を行いながらも全く感謝されなかったということです。

しかし、逆に米国が常に正しいわけではありません。湾岸戦争ではクウェートの解放に成功したものの、その後サダム・フセイン政権転覆を狙って、大量破壊兵器が存在する可能性を口実にイラク戦争へと突っ走ります。冷戦期のベトナム戦争は多数の死者を出して敗退した米国の失敗を象徴する戦争です。韓国は当時軍事政権であり、経済的見返りを期待して実際に参戦します。日本も軍需で潤い、米軍出撃地となりましたが、派兵することはありませんでした。また、のちにカンボジア和平プロセスにおいて親ベトナム勢力を立てながら停戦合意を仲介し、戦後復興へ向けて踏み出す支援をしたのは日本です。当時、米国は日本の和平仲介努力がベトナムのプロパガンダに利用されるとして不快感を示したといいます。

ベトナムはいまだに共産党一党独裁で、カンボジアも長期政権がつづき、野党を弾圧するなど民主化が進んでいませんが、では内戦よりましなほかの選択肢はあったのでしょうか。日本のアプローチは現実的であるがゆえに功を奏したのです。

しかし、日本のような受動的な国ばかりでは、世界平和は成り立たない。ロシアがウクライナ国境沿いに軍を集結させて本格侵攻の構えを見せ、中国が台湾に軍事威嚇を行う現在、アメリカのリーダーシップと軍事力なしに問題に対処することは無理でしょう。ただし、現実的な権力の所在を意識し、何が可能で何が不可能かということを見分けることは重要です。平和も正義もそうした現実的なアプローチの上にこそ成り立っているからです。最近の日本政府がインド太平洋構想を掲げるなどして影響力を発揮し、他方で中国との関係を一定保っているのは、まさに一国平和主義という完全な受動状態から踏み出しつつも、理想と現実のバランスをはかることを目指しているのだと考えられます。

同盟国として、米国の理想主義の暴走を抑えるという日本の役割には重みがあります。よく言われるように「戦後日本は軍隊を海外に出さなかったから偉い」のではありません。コスタリカのように軍を持たない国は、自国や隣国が大国に蹂躙(じゅうりん)されてもなすすべもありません。日本は西側陣営の中で多様なアプローチを確保し、他国に対して誘導を試みたり、ときに緊張緩和を実現するために独自に動く余地があるからこそ価値があるのです。とりわけ台頭する中国に向き合うにあたっては、日本が軍事力において劣る以上、しっかりと計算された取り組みで脅威に立ち向かっていく必要があります。そして、この対中戦略こそが今の世界の安保、経済、政治すべてにわたる中心的課題なのです。

冷戦後の日本は、自らの果たすべき役割をすぐには見出すことができませんでした。それは、日本が失われた20年を経験する中で、政治が強いリーダーシップを発揮できる状況になかったためです。結果として、湾岸戦争のトラウマが完全に解消されるには四半世紀もの時が必要となりました。PKO法(1992年)を通じて人的な国際貢献ができるようになり、小泉政権ではテロ特措法(2001年)、イラク特措法(2003年)を通じて多国籍軍の後方支援をするなど役割を果たそうとしましたが、このとき、小泉純一郎総理が「自衛隊がいられるところが非戦闘地域」と言ったことに見られるように、安全保障上危険な考え方を罷り通らせてしまいます。

軍の活動にリスクがないわけはないし、自衛隊のように専守防衛だからといって、救助を求めて押し寄せてきた人がいた場合、助けるべき人を助けなくてよいということにはならない。政治の表向きの理屈と現場の実態との乖離は根深く、のちに南スーダンでの活動における防衛省の日報問題のようなスキャンダルに発展します。

安保法制を通じて、様々な問題が完全にではありませんが前に進むようになりました。国際貢献の場面では駆けつけ警護や宿営地の共同防護が、より日本に近い海域では米国等の艦船や戦闘機を防護することができるようになりました。この対象には豪州のような日本と縁の深い西側陣営の国も含めることができます。2017年以降日米間で行われている「重要影響事態」を想定した米艦防護の軍事演習は、このような根拠法に基づいて行われているので、万が一安保法制が廃止されてしまえば、このような平時の演習はできなくなります。そのようなことが起きれば、中国に対し台湾海峡で軍事的暴挙に出ることのないよう牽制するメッセージが弱まり、軍事侵攻を誘発しかねないという問題があります。

岸田政権は、憲法改正の実現や敵基地攻撃能力の保有検討を掲げていますが、私は後者に関しては大々的にそれをぶちあげるよりも、具体的にどのような防衛装備を調達・配備したいのかという議論をすべきだと思います。当然、米中のミサイル・ギャップを埋めるという課題、日本にとってはより遠い地点から反撃することのできる飛距離の長いミサイルを配備するという課題が議論の俎上(そじょう)に乗ってくることでしょう。

これだけ国際情勢が流動化していても、日本人のマインドの変化はゆっくりとした漸進的なものになりがちです。それに焦りを覚えると、つい大上段に構えた議論をぶつけがち。ただし、抑止力を強化する取り組みは神学論争に偏ることなく、目下の脅威に即して進められなければなりません。まずは足元から、防衛力強化と、その上に立った外交力の発揮が求められます。

PROFILE

三浦 瑠麗

三浦 瑠麗(ミウラ ルリ)

国際政治学者、シンクタンク 株式会社山猫総合研究所 代表

1980年神奈川県生まれ。内政が外交に及ぼす影響の研究など、国際政治理論と比較政治が専門。東京大学農学部を卒業後、同公共政策大学院および同大学院法学政治学研究科を修了。博士(法学)。東京大学政策ビジョン研究センター講師などを経て、2019年より現職。テレビをはじめ各メディアで活躍する一方で、多くの執筆や言論活動も行う。近著に『日本の分断 私たちの民主主義の未来について』(文春新書)のほか、『21世紀の戦争と平和―徴兵制はなぜ再び必要とされているのか―』(新潮社)、『政治を選ぶ力』(橋下徹共著/文春新書)、『シビリアンの戦争 デモクラシーが攻撃的になるとき』(岩波書店)など著作多数。

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