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21世紀の戦争と平和の視点から読み解くロシア・ウクライナ戦争

三浦 瑠麗さんコラム - 第1回

21世紀は戦乱の世紀になってしまうのか?ロシアのウクライナ侵攻から考える

21世紀の幕開けは衝撃的なものでした。2001年9月11日にアメリカ同時多発テロ事件が起き、数千人の民間人の命が一日にして失われ、国際テロの脅威を世に知らしめたからです。9.11の場合、凶器となったのは民間の航空機でしたが、もしも大量破壊兵器がそうした非国家主体の手にわたったら……と人々の心胆を寒からしめたのは当然です。戦闘員の犠牲を恐れずに攻撃してくる交渉不可能で非合理な集団。テロリストに関するイメージはそういったものだったと思います。一方で、勃興する中国に怯えながら、どこかで「大規模な戦争はあまりに非合理的だから起きない」と考えがちだったのが西側の「常識」でもありました。しかし、ロシアによるウクライナ侵攻によってそのようなイメージは根底から覆されました。

兆候は前からあったと考えてよいでしょう。ロシアによる南オセチアでの紛争介入、多数派の住民の同意はあれども、クリミアを拙速に併合したこと、ウクライナ東部のドンバス地域を独立させようとする軍事工作、いずれをとっても攻撃的な姿勢は否定できません。しかし、これまでの介入はロシア系住民の分離独立派が強い地域に限られており、キーウ(キエフ)を陥落させて傀儡(かいらい)政権を樹立しようとする動きとは、まったく次元が異なるものです。

ロシアの軍事侵攻に対しては、141もの国家の賛同によって国連総会で非難決議が採択されました。それは、別にウクライナが国家として成熟した立派な国だからというのではなく(実際、汚職の現状などを見るとそうとは言えません)、これだけのあからさまな軍事侵攻を行うことは国際法に反し、国際秩序を乱すものだからです。

しかし、この拘束力のない非難決議にさえ加わらなかった国々がいました。国連安保理によるロシアの即時撤退を求める決議でも棄権した中国とインドがその筆頭格です。経済が急成長している人口大国として、今後この二か国が国際社会でさらに大きな地位を占めるであろうことに疑いはありません。そのような二か国がロシア非難決議で棄権したことは、決して軽く見るべきことではないのです。さらには、ロシアに対する広範な経済制裁を主導するアメリカに協力する国は、NATO以外では日豪韓などごくわずかであることにも注意が必要です。中印はもちろんのこと、ブラジルをはじめとするラテンアメリカ、イスラエルやサウジアラビア、UAEをはじめとする中東諸国、シンガポールを除く東南アジア諸国などはNATOの主導する制裁に加わろうとしていません。なぜなのでしょうか。

ひとつには、制裁のもたらす影響が甚大であり、経済や社会の安定、そして人々の命にまでかかわるという各国の認識が挙げられます。欧州諸国とてロシアからエネルギーを買い続けているのですから、他人のことは言えません。もうひとつの理由としては、戦争の惨禍に目を覆い、ロシアの非合理的な軍事行動に驚きあきれつつも、西側諸国のストーリーに乗りたくないと考える国が少なくないことがあると思います。

例えば、なぜアメリカのイラク戦争は許容されているのか。なぜ、イスラエルの第二次レバノン戦争をアメリカは非難しないのか。ロシアによるウクライナの政権転覆と傀儡政権樹立の試みに賛同する国はほとんどいないでしょうが、アメリカはイラクとアフガニスタンでそれをやったじゃないかという声はもちろんあります。クリミア編入を非難すれば、コソヴォ独立の件を持ち出すだろうし、イラクでいったい何人の民間人が死んだのかというクエスチョンを提起するでしょう。もちろん、アメリカのミサイル攻撃や高い所からの空爆、アブグレイブでの虐待と、ロシアの諜報機関や特殊部隊と思しき人員による民間人の拷問と殺害は、その残酷さにおいては同列に論じられないでしょう。交戦法規の守られている度合からして違います。しかし、意図はともかくとして死者の数だけを見れば、戦争の犠牲はいずれも許容しがたいものであると言わなければなりません。

ダブルスタンダード(二重基準)批判は、危険さを孕んでいます。ロシアによる侵攻が非難すべきことであるのは明白なのに、アメリカを批判するロシアの主張に同調することで彼らの行いを免責してしまう恐れがあるからです。こうした他者批判による論点逸らしの態度を、英語ではWhataboutism(ホワットアバウトイズム;要は「あっちだって同じことやっているじゃないか」的態度)と言います。ただ、そうしたロシアを免責するような態度だけでなく、将来の西側の行動を恐れる国々もいるだろうことは確かです。

NATOが多国籍軍として展開した軍事行動の中には、非西側諸国が脅威を覚えるものが少なくありません。ユーゴ紛争では内戦の過程で虐殺が起き、強制収容所の存在まで明らかになったために、アメリカをはじめとする先進諸国の中に残虐行為への報復感情が高まりました。しかし、その後大規模空爆されたセルビアの都市には無辜(むこ)の命を奪われた者たちが沢山いたのです。これは当時、コラテラル・ダメージ(付随的被害)はどこまで認められるかという大議論になりました。また、独裁者とは言え、リビアのカダフィ政権を転覆する内戦にアメリカが手を貸したり、一時期はイランとの戦争で支援したサダム・フセイン政権を転覆させたことを快く思わない国は少なくありません。隣国との武力紛争を抱える国は、大規模経済制裁による包囲網や国連の安保理決議が自国に不利に使われることを恐れています。そうした不安に、ロシアだけでなく中国などはつけ込む傾向にあります。いま中国が行っている情報戦の多くは、日本など先進国における「アメリカに守ってもらえない不安」を拡大させ、かつ「その他大勢の国々」に対米不信を植え付けることだからです。

西側が国際秩序を守ろうとするのであれば、自らもしっかり律しないと逆効果になる。また、すべての国々が倫理的な動機に基づき動くとは限らないということを踏まえ、制裁にのみ頼ることなく、より広範に共有できる規範を中心に取り組むべきです。対露制裁よりもはるかに厳しい経済制裁でもサダム政権は転覆しませんでしたし、イランでも体制は温存されています。イラク戦争で世界はまったく良くなりませんでした。世界中から攻撃国家をすべて取り除くことは不可能です。取り除こうとすればそれが戦争を生みます。つまり、こうした国家間戦争を未来にわたってすべて防ぐことは困難だと考えられます。

では、21世紀は戦乱の世紀になるのでしょうか。それはわたしたちの行動次第であると言えるかもしれません。

今回、ロシアは不合理な侵攻作戦により多くの犠牲を出しています。ロシアの行う戦争は残虐なものですが、それは弱さの表れでもあります。軍事目的が叶えられないので、街を破壊する。協力が得られないので、民間人を殺害する。目的を叶えられない軍事大国は残虐な行為に出たり、核の使用さえためらわない可能性があるので、その意味では危険な存在ですが、ロシアは依然として今世紀における覇権国にはなりえません。今世紀の行方を左右する本丸はアメリカと中国だからです。

この戦争を見ていて、中国の台湾侵攻が仮にあるとしても、いまのままで侵攻するとひどい目に遭うのではないかと北京も当然理解したことでしょう。同時にわたしたちが気を付けなければいけないのは、中国の台湾への軍事侵攻が非合理的な選択であるからといって、絶対に起こらないとは言えないということです。同じことは日本の南西諸島についても言えます。中国の軍事活動があれだけ活発であるのに、抑止に資する備えを怠り、自国の政府こそが平和を乱しかねない存在であるかのように考え続けるのは、明らかに現実に即していない態度です。弱すぎる軍備は戦争を呼び込むのだと理解しないと、道を誤るでしょう。

「アメリカの世紀」は終わりかけています。今回の戦争に際して示した西側の連帯はみごとなものですが、今後とも西側を中心とした国際秩序が続いていくとは考えられません。

第2回および第3回では、今後の制裁の行方や戦争への対応如何によって世界がどのように変化するのか、論じていきたいと思います。

PROFILE

三浦 瑠麗

三浦 瑠麗(ミウラ ルリ)

国際政治学者、シンクタンク 株式会社山猫総合研究所 代表

1980年神奈川県生まれ。内政が外交に及ぼす影響の研究など、国際政治理論と比較政治が専門。東京大学農学部を卒業後、同公共政策大学院および同大学院法学政治学研究科を修了。博士(法学)。東京大学政策ビジョン研究センター講師などを経て、2019年より現職。テレビをはじめ各メディアで活躍する一方で、多くの執筆や言論活動も行う。近著に『日本の分断 私たちの民主主義の未来について』(文春新書)のほか、『21世紀の戦争と平和―徴兵制はなぜ再び必要とされているのか―』(新潮社)、『政治を選ぶ力』(橋下徹共著/文春新書)、『シビリアンの戦争 デモクラシーが攻撃的になるとき』(岩波書店)など著作多数。

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