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人間の本質をあらためて考える

東 浩紀さんコラム - 第3回

生きる意味は“オンライン”では見出せない

このコラムではパンデミックが人類に及ぼした影響や、それによって浮き彫りになった日本社会の課題について伝えてきた。最終回では、コロナ禍によりオンラインでの業務が当たり前になった状況で人と人がリアルで対話をすることの意義、無駄で非効率に思えることの重要性について、会社を経営してきた人間として私の考えをお伝えする。

無駄に見える儀式的な行為について、いま一度考えよう

私はここ10年ほど、ゲンロンという会社を経営してきた。緊急事態宣言が出たときは、弊社でも世の中の流れに合わせてオンラインでのやり取りを推奨した。うちは普段からオンラインのツールを使って業務を進めていたので、比較的リモートワークに向いている会社だと言える。

ただ、弊社はトークイベントや本の出版といった業務もしており、社外の人とのお付き合いが多い。オンラインだと、どうしてもコミュニケーションが必要最低限のものになり、関係性がだんだんと希薄になっていく。そうすると相手のモチベーションも下がるし、下がっていることにも気づきにくい。その結果、出来上がるクリエイティブの質が下がっていく。よって私は、オンラインで仕事が完結することはありえないと考えている。

明確にやることが決まっており、指示を与えるだけの仕事なら、オンラインだけでもかまわないのかもしれない。でも私たちは、「今、チケットが売れない。売るにはどうすればいいのか?」といったことを業務上考える必要がある。担当者のノルマを決めて指示するだけでは、ものが売れるとは思えないし、生産性は上がらないだろう。

そこで、新しい売り方を考えなくてはならないわけだが、そのためにはやはりリアルでの対話、無駄に思える雑談やブレイクタイムが必要だ。将来的には技術の進歩によって、オンラインでもそのようなことができるようになるかもしれない。でも、今のところ新しいアイデアを産み出すには、顔を突き合わせて話をすること以上に効率的な方法はないように思える。

人と人が直接会うことを含め、今は効率化のもと、一見、無駄に見えるものをなるべく減らそうとする風潮がある。でも、私から言わせれば、会社が業績をあげるためには、そのような無駄に見えるものこそ必要だ。人は感情で動く生き物なので、論理や理屈だけでは人を動かすことはできない。一見、儀式的に見える会合でも、それによって社員のモチベーションやチームワークを高めることがあるかもしれない。

人とのリアルな触れ合いを通して生まれる、生きがいややる気

学校に通わなくても、ネットを使えば知識を得られる。会社に通わなくても、オンラインで効率よく仕事ができる。そのほうが自由で「自分らしい」人生を送れる。最近はそんな生き方を理想とする風潮がある。

ただ、それは現実から乖離していると私は思う。そのような生き方を続けることができるのは、エネルギッシュで能動的な一部の人たちだけだ。大半の人は、彼らほど主体的でも情熱的でもない。孤独にも強くない。“人間には誰しも夢ややりたいことがあり、それを突き詰めることが良い人生だ。”今は社会全体にそのような風潮がある。でも、そもそもたいていの人間には特別やりたいことなどないのではなかろうか。「自己実現」がより良い人生の前提条件となっているため、多くの人が悩み、苦しんでいる。

また、“人は組織などの束縛から解放されれば、やりたいことを自由に追求できる”という考えは、私からすると非現実的に聞こえる。実際は、束縛から解放され、「自由に何をやってもいいよ」と言われると、何をしていいかわからず、途方にくれる人がたくさんいるのではないだろうか。多くの人にとっては、会社や家族、地域といった人との関係性のなかで、やるべきこと、やりたいことが生まれてくると思われる。リアルな人との関係を捨て、ネットをいくら検索したところで、生きがいややりがいというものは見つかるものではない。

私自身、ゲンロンという会社がなかったら、今ごろとっくにやりたいことはなくなっていたと思う。それが今、それなりに意欲的に仕事をしているように見えるとしたら、それは会社があるからだ。会社を通じて日々、多くの人と触れ合い、刺激を受けているから、やるべきことや、やりたいことが生まれているのだ。私はモチベーションややる気というものは、人間の内側からではなく、外側からやってくるものだと思う。

世界有数の高齢化の国でどう生きていくか

この話は、日本が世界でも有数の高齢化社会になっているということとも関係している。例外はあるだろうが、たいていの人間は年を取ると確実にエネルギーが減り、やる気がなくなっていく。やる気がなくなってからの人生のほうが長い時代に突入している。このことについて、もっと真剣に考えたほうがいい。

日本はエイジズムが非常に強い国だ。漫画やアニメの主人公は10代が多く、テレビドラマも20~30代の人間をベースにつくられていることが多い。この国のカルチャーは、元気でやる気があり、未来に向けて成長している人を対象としていて、「人はみんな夢を追いかけ、自己実現に邁進している」という前提のもとでつくられている。「オンラインでもやる気があればできるはずだ」という考えもまたその前提と関係している。

けれども、現実には日本人の大半はそうではない。みなが元気で、やる気のあるふりをしなくてはならない社会は息苦しいだけだ。それがこの国の生きづらさや自殺率の高さにつながっているのではないだろうか。

これからの日本は、若者だけではなく、その先の人々に焦点を当てて社会設計をしなければならない。そのうえで、社会をどう回していくのか。そろそろそんな議論を本気でする時期に、日本は来ていると思う。

PROFILE

東 浩紀

東 浩紀(アズマ ヒロキ)

批評家、作家

1971年東京都生まれ。東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了。博士(学術)。株式会社ゲンロン創業者。専門は哲学、表象文化論、情報社会論。著書に『存在論的、郵便的』(1998年/第21回サントリー学芸賞 思想・歴史部門)、『動物化するポストモダン』(2001年)、『クォンタム・ファミリーズ』(2009年/第23回三島由紀夫賞)、『一般意志2.0』(2011年)、『ゲンロン0 観光客の哲学』(2017年/第71回毎日出版文化賞 人文・社会部門)、『ゆるく考える』(2019年)、『テーマパーク化する地球』(2019年)、『哲学の誤配』(2020年)、『ゲンロン戦記』(2020年)ほか多数。対談集に『新対話篇』(2020年)がある。

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