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マッチング理論が目指す未来

小島 武仁さんコラム - 第2回

日本でも進む社会実装

私は現在、東京大学マーケットデザインセンターの所長として、日本でのマッチング理論の社会実装に取り組んでいます。前回のコラムでは、そもそものマッチング理論の概要と、その役割についてお伝えしました。今回は、より具体的なアメリカや日本での社会実装の事例を紹介します。

すでに日本でも定着し、成果を出している研修医のマッチング

マッチング理論はアメリカで生まれ、1990年代後半から本格的に社会実装が進みました。日本での社会実装は遅れていますが、比較的早い段階から導入されているものがあります。それが研修医のマッチングです。

日本では毎年、1万人弱の医学部を卒業した人が国家試験を受けた後、全国1,000を超える研修病院に配属されています。しかし、各病院のニーズを満たしつつ、研修医の希望をかなえ、彼らを適切にトレーニングできる配属先を決めるのは簡単なことではありません。これを人の力で調整するとなると、大変な労力がかかるだけでなく、研修医や病院にも大きな負担やストレスとなります。そこで、日本でも2003年からマッチングアルゴリズムを使い、コンピューターで研修先を決める仕組みが導入されています。

このシステムでは、研修医が行きたい病院、病院が受け入れたい研修医の希望順位をつけたリストをホームページ上で提出します。それをもとにマッチングアルゴリズムが、最適な組み合わせを決めるのです。コンピューターによって瞬時にマッチングするので、「第一志望は人気がありそうだからあえて第二志望に希望を出す」などといった無駄なかけひきをする必要はありません。マッチングのための手間や、病院や研修医のストレスも大きく減りました。

ただこのシステムでは、人気のない地方病院の医師不足を助長する傾向があったため、2009年からアルゴリズムを変更し、都道府県別の定員を設けてマッチングを行うことにしました。しかしそれによって、今度は個々の病院には受け入れ余力があるのに、都道府県の定員オーバーで受け入れができない、といった問題が生じます。本来なら第一志望の病院で研修できたはずの研修医が、第二志望以下の病院で研修せざるをえないミスマッチが起きる可能性があるのです。そこで私は、研修医の応募状況に応じてアルゴリズムが定員を自動調整する仕組みを提案しています。

企業の人事配置の満足度を高め、待機児童問題を解決するために

研修医のマッチングのように、人と組織を最適に結びつける仕組みは、企業の人材配置においても有効です。アメリカでは、例えばグーグルがマッチングアルゴリズムを活用した定期異動の仕組みにより、迅速かつ的確な人事配置を行っています。

日本でも大企業の人事担当者の多くがマッチング理論に強い関心をお持ちです。私が2020年の終わりに日本に帰国し、東京大学マーケットデザインセンターを設立すると、すぐに多くの人事担当者から問い合わせをいただきました。すでに大手医療機器メーカーなどでアルゴリズムによる新入社員の配属のお手伝いをさせていただいています。その結果、配属部署と新入社員の双方からの納得度が高まり、人事担当の負担が減りました。現在はより多くの企業や自治体に参加いただき、少しずつ仕組みを変えた比較対照実験を行い、効果を検証する研究プロジェクトを進めています。

これ以外に、マッチング理論は教育分野でもさまざまな活用ができます。アメリカではニューヨークやボストン、シカゴなどで、生徒が進学先の公立学校を決めるうえでマッチングサイトを活用しています。それにより、自分の希望の学校に進学できる生徒が大幅に増えています。

私は日本では、まずは待機児童問題を抱えた保育園にアルゴリズムによるマッチングを導入すべきだと考えています。現在、地域のどの保育園に入園できるかの決定は自治体の職員が人力で行っており、膨大な労力がかかっています。硬直的な年齢別の定員を設けていて、保育士や保育園などの資源が有効に使われていないケースもあります。

そこで、私が山形市のデータをもとに、応募状況に応じて年齢別の定員を柔軟に調整するアルゴリズムでシミュレーションしたところ、待機児童が63%も減少するとの結果が出ました。現在、この方式を横展開すべく、さまざまな自治体やIT企業と共同研究を進めています。自治体ごとに異なる仕組みをヒアリングし、改善すべき点を提案したり、シミュレーション結果をもとに議論をしたりしています。

データを自由に流通させるだけでなく、いかに制御するかも大事

最適なマッチングをするには、単にネットやコンピューターなどの最新テクノロジーを導入するだけでは済みません。かつてはインターネットの発達によって、情報が制限なく自由に流通するようになれば、最適なマッチングが可能になるとの楽観論がありました。でも、現実にはそうはなりませんでした。その最たる例が就職です。ネットで誰でも簡単に何社でもエントリーできるようになった結果、ランキング上位の会社に応募が殺到し、知名度はないけれど優良な会社に応募が集まりにくくなっています。

そこで、今は逆に最適なマッチングのためには、あえて情報の量や質を制限する必要がある、という発想になっています。例えば、結婚相手を探すマッチングアプリでは、メッセージを送るために課金したり、一定期間に送れるメッセージの量を制限したりしています。それによって無責任に大量のメッセージを送るようなことを防ぎ、マッチング率を向上させているのです。

このようにマッチング理論やマーケットデザインの世界では、テクノロジーや数学だけでなく、人間心理や組織、社会に対する知識や理解も不可欠です。GSアルゴリズム自体は汎用性の高いものですが、それを社会実装するうえでは現場ごとのさまざまな制約をクリアし、カスタマイズする必要があります。そのためには現場の方と密にコミュニケーションをとり、検証や改善を重ねていく必要があります。そこがこの仕事の苦労するところであり、やりがいがあるところです。

アルゴリズムによるマッチングを行うには、必ずしも巨大システムやビッグデータは必要ありません。既存のシステムと軽い計算資源を活用してできることはたくさんあります。原理的には、現場の課長レベルの人が仕事の割り振りに使ったり、スーパーや飲食店でシフトに活用したりする、といったことも可能です。今はまだありませんが、将来的にはマッチング理論を応用した汎用的なクラウドサービスのようなものも登場するかもしれません。いずれにしろ今後、マッチング理論は日本社会においても、ますます身近なものになっていくでしょう。

PROFILE

小島 武仁

小島 武仁(コジマ フヒト)

東京大学大学院経済学研究科教授、東京大学マーケットデザインセンター センター長

1979年東京都生まれ。東京大学経済学部経済学科を卒業(卒業生総代)。ハーバード大学でPh.D.(経済学専攻)取得後、イェール大学コウルズ財団博士研究員、コロンビア大学経済学科客員助教授、スタンフォード大学経済学部教授を経て、2020年9月より現職。研究分野はマーケットデザイン、マッチング理論、ゲーム理論。学外においては、経済同友会代表幹事特別顧問、Econometric Society終身会員などを務める。

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