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流転の時代をどう生きるか

成田 悠輔さんコラム - 第3回

ゾンビと波平:持続可能な高齢化社会を考える

「ゾンビ企業」が生産性低迷を生んでいる

長年、日本企業からイノベーションが起きていない、新しい産業が生まれていないと嘆かれています。ただ、前にも触れたようにこれらは狙って作り出すことは難しい。異常値的な企業を人為的に作り出そうという一発逆転的な議論をすることにはあまり意味はないんじゃないでしょうか。ずっと新産業の波の先端に居続けられてる国ってアメリカしかないですし。

それよりも、日本の経済再生のために着目すべきなのはもっと地味なことです。例えば低迷する労働生産性―特に第三次サービス産業(飲食・宿泊・小売・教育・医療など)での生産性の低さです。その要因としてよく挙げられるのが、生産性の低い企業がゾンビのように生き残り続けてしまっていることです。日本は税制優遇や低金利・低担保での貸付制度など、中小企業を保護する政策が充実しています。その結果、もはやほとんどビジネスとして成立していない中小企業も存続できてしまっていると言われています。

経営資源が乏しく不利な中小企業を守ることは、正義のように思われるかもしれません。ただ、その負の側面にも目を向けるべきだと思います。例えば、ここ30年ほど日本の賃金がほとんど変わっていないことはよく知られていますが、さらに労働生産性や賃金の格差も広がっていることが知られています。低賃金で人を雇いとどめている主な受け皿がゾンビ企業です。ビジネスとして成立しているかいないか怪しい企業が生き残ってギリギリの低賃金で人を雇い続けることで、低賃金デフレスパイラルから抜け出せない悲しい循環が起きている可能性があるのです。このような悪循環構造にきちんと目を向け、メスを入れていく必要があります。オンライン診療から教員免許の規制緩和まで、昭和な既得権益を守っている岩盤規制をいかに切り崩していくか。この点こそ、日本経済再生のための地味だが最もインパクトの大きい戦略ではないでしょうか。

「少子高齢化」で衰退確定とは限らない

生産性の低さに加え、もう一つ日本社会の大きな課題として挙がることが多いのは少子高齢化でしょう。ただこの問題についても、私たちはちょっと認識を変える必要があると思っています。日本で高齢化が語られる際には必ず「だから日本経済は衰退していく」といった運命論的な暗い論調で語られますが、少子高齢化をネガティブにとらえすぎる必要はありません。たしかに、人口が減れば国全体としての総GDPも減る傾向はあります。でも、高齢化が進んでいても一人当たりのGDPをきちんと保ったり、成長させたりしている国は世界中にいくらでもあります。ドイツや韓国、シンガポールなども日本に近いくらい高齢化していますし、後二者は出生率だけ見れば日本よりひどい状態です。それにもかかわらず、日本と比べものにならない経済成長を遂げている。その背後にあるのは、高齢化というピンチをチャンスとして活用した製造業やサービス業の合理化や自動化だと言われています。少子高齢化で人口減少が進む社会でも豊かな国を保つことは可能だということです。

“引退”の概念をリセットする

そもそも高齢化といっても、人間の能力は思っているほど高齢化していません。例えば、ある医学系の研究では人間の肉体的能力、認知能力は半世紀前の60歳と今の60歳ではまったく異なるそうです。先進国の昔の60歳は、今の80歳くらいに相応するとも言います。つまり、同じ年齢でも今の人は昔の人より大幅に若返っている。例えば、漫画『サザエさん』に登場する波平さんは54歳です。これは今の福山雅治さんとほぼ同い年です。この二人が同い年だとはとても思えませんよね(笑)。これは極端な例ですが、現代人はだんだんと若返っているのです。昔とは50~60代の体力も能力も大きく異なっていること、実質的な高齢化は年齢の額面ほどは進んでいないことを認識する必要があります。

日本には現役引退後はボランティアのような値段で働くことが当然、という謎のカルチャーがあります。一見心暖かい貢献に見えますが、安売りする人が増えると結果的に現役世代の賃金も押し下げることになってしまいます。引退後に悠々自適な人たちが、趣味で採算度外視の価格で提供する飲食店と同じです。それによって、普通に営業していた近隣の飲食店がつぶれてしまう。それに近いことが、日本の労働市場全体で起きている。さらに、引退後の労働力にまともな値段がつかないなら、高齢者も新しいことを学び、スキルを身につける気になれません。そうやって、一見人のためになるように見えて結果として全員を不幸にする文化が、形成されてしまっているように思います。根強い年功序列があり、そこから外れた高齢者や非正規は買い叩かれるという構造を変え、誰しもスキルや能力に応じて労働市場で適切な値段がつくようにする必要があります。それが最初に触れた生産性問題への解決の糸口にもなるでしょう。年齢という呪縛を社会全体でリセットする必要があるのです。

PROFILE

成田 悠輔

成田 悠輔(ナリタ ユウスケ)

イェール大学助教授、半熟仮想株式会社代表

専門はデータ・アルゴリズム・ポエムを使ったビジネスと公共政策の想像とデザイン。ウェブビジネスから教育・医療政策まで幅広い社会課題解決に取り組み、多くの企業や自治体と共同研究・事業を行う。報道・討論・バラエティなどテレビをはじめさまざまなメディアの企画や出演にも関わる。東京大学卒業(大内兵衛賞受賞)、マサチューセッツ工科大学(MIT)にてPh.D.取得。一橋大学客員准教授、スタンフォード大学客員助教授、東京大学招聘研究員、独立行政法人経済産業研究所客員研究員などを兼歴任。内閣総理大臣賞、MITテクノロジーレビューInnovators Under 35 Japanほか多数受賞。著書に『22世紀の民主主義』など。

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