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スピリット

笹原 友希さんコラム - 第4回

矜持

突然の宣告

ソチオリンピックが終わりロシアから帰国後、お世話になった方々や母校への挨拶回りなどをして過ごし、ピョンチャンオリンピックへの新しい4年が始まるまで束の間の休息をとりました。

僕が思っていた以上に皆さんが応援してくれていたことを知り、次こそはオリンピックの舞台で躍動し、メダルを持って帰ろうと心に誓いました。

しかし、長野に戻った僕を待っていたのは、クラブチーム契約満了の知らせ。

つまり、クビを宣告されたわけです。

1年で成長を実感したクラブチーム。あと4年間この場所で自分を磨けば、今度こそ金メダルを狙えると思っていたのですが、その計画はこの時、白紙になりました。

数時間後に行われるクラブチームの期末大会で、僕はどう振舞えばいいんだろうか、こみ上げる感情を抑えて自問自答しました。

そして、なんとか期末大会で社員の皆さんへ感謝の気持ちを伝え、残った選手へエールを送りましたが、チームを去った後は堪えていた涙があふれてどうしようもありませんでした。

やれない理由を環境やお金のせいにしない

オリンピックラストチャレンジの場所に選んだのは故郷秋田です。

スケルトンは、国際大会に参戦するだけで数百万円の費用がかかります。他にも、用具代や自己強化のための合宿費、結果を求める為には、国際大会参戦費用以上のものが必要になります。そして何よりも、まずはトレーニング以上に競技を続ける環境作りが必要となります。

がしかし、わが故郷といえど一介の若者を支援してくれる方は、なかなか現れません。

「都会の方が大企業は、たくさんあるだろう?」

「長野にコースがあるのになぜ帰ってきた?」

「今がやめどきなんじゃないのか?」

「秋田でやるなんて無謀だ!」

という調子で、最初は八方塞がりでした。

でも僕は、ソチオリンピックの選手村で誓った自分との約束を思い出します。

  • (1)4年後のピョンチャンオリンピックチャレンジをするか?→Yes
  • (2)それは、自身がどんな環境でもYesなのか?→Yes

どんな環境でもピョンチャンまで続けることを決めていたのです。それならば、「絶望している暇はない。やれる方法をとことん考えよう。」そう思い直しました。それに、こういう状況は初めてではありませんし、だからこそ現状は必ず好転する、と思えました。

焼き鳥屋で働きながら、1年が経つ頃にはスポンサー3社が決まり、同時に後援会も発足。

地元のヒーロー「超神ネイガー」はスケルトン用ヘルメットを作ってくれ、デザイン会社の先輩は「スケルトン笹原応援LINEスタンプ」を作ってくれました。

※超神ネイガーとの1枚
※スケルトンスタンプの初期原案

焼き鳥屋の店長が社長に口をきいてくれて、アルバイト先はそのままメインスポンサーになりました。そして、ネイガーヘルメットを被り戦うことで秋田を拠点に戦っていることが次第に認知され、手を差し伸べてくれる方が次々に現れました。町内の方の協力で、夏場のスケルトン用練習施設もできました。

※三角沼スケルトンスタート練習場 メモリアル

オリンピックより嬉しい!?念願の全日本選手権初優勝

そうして迎えた2014年全日本選手権。大会レコードと最速レコードを同時に更新し、初優勝を勝ち取りました。この最速レコードは、2018年の今現在も破られていない記録です。

苦手意識のあった全日本で、ついにいかんなく力を発揮できました。

何百回、何千回、ウォーミングアップからレーシングスーツに着替え、完璧な滑走内容の後、電光掲示板に光る「1」という数字を仰ぎ、両親と抱き合うところまで、そこまで含んだイメージトレーニングを重ねて迎えた瞬間です。

勝因はなんだろうか?

これはもう気持ちとしか言いようがありません。

「覚悟」「誇り」「静かなる闘志」、勝つために持つべき気持ちがすべて整っていました。

優勝して健在をアピールすることは、クラブチームのみなさんへの恩返しだと思っていましたし、結果が今後の競技生活に大きく影響すると思っていました。

それらは気負いにならず、優勝という目標に対して「そうあるべきだ。そうなるべきだ。」という至極当然の感覚を持って試合に臨みました。

実家の秋田から大会が開催される長野まで、毎年かかさず車で応援に来てくれていた両親にとって結果の出ない大会の帰り道は、とても長く感じていたんだろうなと思うと、この時は少し親孝行できたのかなと、今でも思っています。

クロストレーニング

ある程度、経験での伸びしろは無くなっていると感じていた後期は、スケルトンに関わらずいろんな練習を取り入れました。クロストレーニングといって、違う動きや筋肉の使い方をすることで自分の競技に生かすという取り組みです。

これまでにスケルトンのために取り入れたのは、競輪、射撃、サーフィン、卓球、サッカー、ボート、ゴルフ、ジャズダンス、登山、乗馬、剣道など。

サーフィンは自然と一体になることの大切さや、待つことの大事さを教えてくれましたし、剣道からは所作、礼儀礼節、心の落ち着かせ方を学び、スタートには蹲踞(そんきょ)のイメージを取り入れました。

その道に精通する人との出会いは、僕の視野を広げてくれました。

※クロストレーニングと剣道の様子
※射撃・乗馬の様子

役割の変化・価値観の変化

いつの間にか若手からベテランと言われるようになり、若手選手の見本となるべき立場になっていきました。大会で若手が失敗して殻に閉じこもっている時は握手を求めに行くなど、行動にも変化が現れました。

海外では日本人1人で国際大会を回ることもあったので、強豪国と渡り合うためにスモールネーションでチームを編成し、得意な滑走技術をメンバーに開示。その代わりに僕は滑走を撮影してもらい、大会当日のサポートをしてもらいました。

結果が全てのスポーツの世界で、結果だけが全ての大会は味気ないと思います。自分のことを周りに認めさせたところで、自己満足でしかありません。

「Yuki!!君の姿勢はサムライだね。」

「Yuki!!君の滑りはビューティフルだね。」

優勝した選手が表彰台の下で見ている僕に歩み寄ってきてこんな言葉をかけてくれる。それは勝利の味以上に味わい難いものです。それに対して「おめでとう。次は負けないぞ」とアンサーを出す。敗者が勝者を称え、勝者は敗者に配慮する。

ソチオリンピックまでは自分が認めた選手以外のことはどうでもよかったのですが、ピョンチャンオリンピックまではスケルトン全体のことを考え、後輩を育てることと自分のノウハウをオープンにすることを行動指針にしました。

※大会後のウィスラー・カナダで。オーストラリアの選手と。

ピョンチャンオリンピックチャレンジは成功だったのか?

ピョンチャンオリンピック、僕は若手に敗れ、出場できませんでした。引退を決めたのは、ピョンチャンオリンピックの約3カ月前、年末の全日本選手権。

4年振りに表彰台を逃し、ピョンチャンオリンピック出場の可能性は断たれました。この瞬間、選手としての役目が終わったのだと思いました。

オリンピック落選。

これは8年前の僕なら失敗以外の何物でもなかったでしょう。しかし、このチャレンジは僕を大いに変えてくれました。若手に超えられて引退できたことは、これはこれで幸せなことだと思います。

秋田でスケルトンをやるなんて無謀だという周りの声は、最後の最後まで反骨精神を燃えさせてくれました。

でも、反骨精神だけでなく、感謝の気持ちを持って、たくさんの仲間と共に戦えた最後の4年間。スケルトンの姿勢そのままに突っ走ったラストチャレンジでした。
僕なりにスケルトンという道で矜持を持てた今、15年間が幸せだったと心から思います。

自由とは? 幸せとは? 生きがいとは?

皆さんはどんな指標をお持ちですか?

僕は、他人との比較だけでは測れない指標を持つことで、今起こっている現実は幸せにも不幸せにもなりうる。未来はいくらでも変えられる。そう思っています。

魂「スピリット」に耳を傾け、魂「スピリット」が本当に望んでいる道を歩み続ける。それが僕にとって一番大事なことです。

最後に

好きなことでスポットライトを浴びるスポーツ選手は、一見楽な生き方のように見えます。しかし、僕の競技人生のほとんどが地味であり、苦悩でした。うまくいったことなんてほとんどありません。

でも、振り返ると苦悩している最中が1番成長していて、1番輝いていて、今は1番愛おしく感じます。

万事休すと思った時に奇跡的な出会いがあり、自分の限界を超える体験をし、新しい景色が開ける。苦悩がチャラになってお釣りがくるほどのご褒美を、僕は頂いています。

これからのスケルトン界の発展を願うとともに、一旦スケルトンの世界から離れて勉強し、スケルトンで経験したことを社会に生かしていけるよう、選手時代よりも輝けるよう、生涯ファイターでありたいと思います。

「君。夢はなんや?」

「僕の夢は、……です。」

「ええ夢やな」

PROFILE

 笹原 友希

笹原 友希(ササハラ ユウキ)

スケルトン競技元ソチオリンピック日本代表

1984年秋田県生まれ。仙台大学時代からスケルトンを始める。卒業後、株式会社アドバンスクリエイトに就職(2010年まで在籍)。北海道・長野・秋田で社会人として競技を続けながら五輪を目指し、2014年に念願のソチ五輪に出場。2017年に現役を引退し、現在は茅ケ崎のスポーツクラブの広報業務に従事。

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