自動運転は街を「集中」から「分散」へと変化させる - 関係と承認の新たなテクノロジーが社会を変える(佐々木 俊尚さんコラム - 第2回)


関係と承認の新たなテクノロジーが社会を変える

自動車はいずれ、ドライバーが不要で運転席さえ存在しない「完全な自動運転車」へと進化していきます。このような完全な自動運転車が当たり前に道路を走るようになると、何が起きるでしょうか。

現在の道路が渋滞してしまうのは、人間のドライバーの心理的要因が大きいと言われています。高速道路では、たとえば「サグ」と呼ばれる下り坂から上り坂に差しかかる凹型のところでは、ドライバーが無意識のうちに速度を低下させてしまうので渋滞が起きやすい。またインターチェンジから本線に入る合流部では、走行車線のスピードが落ちるのでドライバーは追い越し車線に逃れようとして、追い越し車線が詰まって渋滞してしまいます。

しかし完全な自動運転ではAIが運転するので、心理的な要素は入り込みません。だからすべてのクルマが自動運転車になれば、大半の渋滞はなくなると考えられます。交通事故も激減するでしょう。AIは酔っ払い運転も「うっかり」や「ボンヤリ」も皆無だからです。

そうなってくると、人間の運転する自動車は「ノイズ」になっていきます。道路とクルマを完璧に制御するのであれば、どんな行動をするのか予測できない人間の運転は混ざらない方が良いからです。このノイズを排除して、膨大な数の自動運転車が整然と隊列をつくって走る方が、効率が良く事故も少ないのは明らかでしょう。

だから人間の運転はだんだんと排除され、いずれは「運転」という行為は専用のコースでだけ楽しめる娯楽やスポーツになっていくのかもしれません。クルマを所有する人も当然少なくなり、無人の自動運転タクシーが広まっていくでしょう。テスラのイーロン・マスクは「無人タクシーの料金はいずれ路線バスと同じぐらいになる」と明言しており、そうなれば有人タクシーやバスは衰退し、無人タクシーが近距離移動主軸になっていく可能性は高いと思います。

わたしは東京と長野、福井の三拠点を転々と移動して暮らしていますが、長野や福井で悩みの種なのは夜の会食での交通手段。出かけた先でお酒を飲んでしまうとタクシーか運転代行を頼むしかないのですが、台数が少なく待ち時間が長く、料金も高いのです。無人タクシーなら出先でお酒も飲めるので、飲酒運転の心配もなくなるし、運転代行やタクシーを確保する面倒もなくなる。じゅうぶんに安い料金で提供されるのなら、地方都市では無人タクシーを歓迎する人が特に多いのではないかと思います。

どのぐらいの数の無人タクシーが必要になるのでしょうか。東京を例に考えてみましょう。東京では、1日に200万台あまりの交通量があります。高速道路を使って東京を通過しているクルマが100万台、一般道を走っているクルマがやはり100万台。車種で言うと、乗用車が120万台でトラックが90万台。高速道路を走るクルマやトラックを除いて、街中の一般道を走る乗用車だけに限定すると50万台あまりでしょうか。

この50万台のニーズが無人タクシーに置き換わるとしましょう。このニーズを満たすだけの無人タクシーが都内を走り回って、数十万人の乗客の求めに応じて乗車地から目的地まで運ぶ。現在のマイカーを代替する便利なサービスにするためには、客がクルマを呼んだらせいぜい数分から十分ぐらいでやってきてくれるようにしなければなりません。

この最適化には、リアルタイムでの猛烈な計算が必要になります。ここでもAIが活躍することになるでしょう。無人タクシーの現在の居場所、実車か空車か、お客さんからの要請などの膨大なデータをクラウドに集約し、計算するのです。さらにこれらリアルタイムのデータに加えて、「どの場所のどの時間帯にどのぐらいのお客さんが現れるか」「道路の混雑状況はどうなのか」「ある地点で乗ったお客さんはどこで降りる可能性が高いのか」といった予測もAIが行い、無人タクシーの配置と運行を最適化することになります。

AIが駆使する無人タクシーの公共交通サービスが整備されれば、人間が移動する手間とコストは大きく削減されることになるでしょう。たとえば地方都市の買い物の中心はショッピングモールになっていますが、あまりに巨大すぎると駐車場から建物内への移動がけっこうたいへんです。「入り口から遠いところにクルマを駐車したら、妻が怒って夫婦ゲンカになった」などという笑い話があるほどです。

しかし無人タクシーが普及すれば、ショッピングモールではなく個別の店舗の方がクルマをつけやすくなるというメリットも生じてくるでしょう。昔のアーケード型駅前商店街の方が、無人タクシーには向いているという逆転的なことが起きてくるかもしれません。

無人タクシーは人びとを店の前まで連れていって姿を消し、買い物が終わったらまたどこからともなくやってきて自宅に連れ帰ってくれる。歩く距離は歩道を横断するわずか十数歩。自動運転が普及した世界では、ショッピングモールよりも駅前商店街の方がクルマ移動にとって便利になってしまうということなのです。

もともとショッピングモールというのは、店舗とクルマとお客さんを一か所に「集中」させるという構造でした。しかし自動運転の世界では、このような「集中」は必要なくなります。それどころか、「集中」しているよりも「分散」している方が、移動の面倒さが少なくなり、便利になるのです。つまり自動運転は街の形態を、「集中」から「分散」へ移行させることを促すのです。

これは人と店、人と人の関係を大きく変える可能性をはらんでいると言えるのではないでしょうか。私たちはなるべく寄せ集まって暮らす方が楽だと考えてきました。立地の良い住宅や店舗が好まれてきたのです。しかし自動運転が普及すれば、立地ということを考慮しないですむライフ/ワークスタイルに変わっていく可能性があります。これは分散型構造の社会への道を拓くのです。

そもそも人が集まる「都市」とは何なのでしょうか。単に人が集まってきて密集して居住し、働いているだけでは、都市の持続性はありません。たとえば前世紀には大きな工場が地方につくられ、「企業城下町」と呼ばれる人工的な都市がたくさん出現しましたが、グローバリゼーションで工場が海外などに移転すると、あっという間に寂れてしまいました。

都市が持続するためには、集まった人びとが交流し、雑談し、さまざまなアイデアを持ち寄って火花が散り、そこから新しいビジネスや産業やイノベーションが生まれていくような持続的な循環が必要になります。

その好例として、自動車都市として有名な米デトロイトがあります。19世紀の終わりにガソリンで走る自動車が発明されると、フォードの創業者ヘンリー・フォードが近郊の生まれで、デトロイトで自動車の開発に取り組んだこともあって、この街にさまざまな人が集まってきました。優秀な技術者や経営者や、あるいは優秀ではない人たちも、怪しくインチキな人たちも集まり、そういう人たちの交流や雑談や協力によって、いろんなアイデアが生まれていったのです。

20世紀初頭にはデトロイトに今でいうスタートアップ企業が乱立し、実に200社近い自動車企業があったといいます。ここから世界恐慌や第二次世界大戦などを経て、戦後にはフォード、GM、クライスラーの自動車産業ビッグスリー体制ができあがっていったのです。しかしデトロイトは、その後は凋落してしまいます。フォードの大量生産は多くの労働者を集めましたが、それが結果としてデトロイトを「企業城下町」にしてしまい、新しいイノベーションを生み出すような素地に結びつかなくなったという要因もあるのでしょう。

このように現代の都市には、20世紀初頭のデトロイトのような人と人の交流や雑談による持続性が求められているのです。ただ人が集まるだけでは長続きしません。人が集まって、そこからビジネスや文化やそういったものを生み出すエネルギーを持たないと、持続しないのです。言い換えれば、そういう人と人の「相互作用」をどうつくるのかが、現代の都市の設計には強く求められているのです。

そしてこの交流や雑談は、メタバースや自動運転などのテクノロジーの支援によって、以前よりも容易くなっていくでしょう。日ごろは分散していても、必要があれば自動運転によって瞬時に集まることができる。あるいはメタバースによって、分散していても同時に集まるという多重性を持つことができる。

つまり分散型社会というのは、「分散しつつも集中できる」という一見して二律背反なことを実現してしまう。これは人口減が進み、今後多くの街が消滅していくであろう日本にとっては、重要な議論です。なぜならば人口減によって強制的な分散が進んだとしても、それでも同時に集中による新たなビジネスやイノベーションの生成を期待していけるからです。

佐々木 俊尚(ささき としなお)_sasakitoshinao2-1

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PROFILE

佐々木 俊尚(ささき としなお)

佐々木 俊尚(ささき としなお)

作家、ジャーナリスト

1961年兵庫県生まれ。愛知県立岡崎高校卒業、早稲田大学政経学部政治学科中退。毎日新聞社などを経て2003年に独立し、テクノロジーから政治、経済、社会、ライフスタイルにいたるまで幅広く取材・執筆・発信している。総務省情報通信白書編集委員。『現代病「集中できない」を知力に変える 読む力 最新スキル大全』(東洋経済新報社)、『時間とテクノロジー』(光文社)、『キュレーションの時代』(筑摩書房)、『「当事者」の時代』(光文社)など著書多数。Twitterのフォロワーは約79万人(2022年11月24日現在)。東京・長野・福井の三拠点移動生活中。

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