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しゅんぺいた博士と学ぶ破壊的新規事業の起こし方

玉田 俊平太さんコラム - 第1回

歴史と伝統を誇る大企業の「破壊」

静かな大海原。海鳥がとぼけた声を出しながら波間を飛んでいる。

「ニャァ、ニャァ」

不意に、背後に巨大な山が現れた。びっくりして逃げていく海鳥。

ゴンゴンゴンゴン……

いや、山ではない。巨大企業戦艦「グラン・ブルー」が、静かな海を切り裂くようにその威容を現したのだ。

艦長:「現在のシェアを報告せよ。」

部下(1):(スクリーンを見ながら)「はい、本艦のシェア70パーセント。安定的に推移しています。」

艦長:「顧客の要望はどうか?」

部下(2):(レポートの束をめくりながら)「より処理能力の高い、容量の大きなコンピュータを望んでいます。」

艦長:「研究開発の状況は?」

部下(3):(なにやらダイヤルをいじり、計器を見つめながら)「はい、現在、全速力で新技術の試験を進行中。予定通り、来年には2倍の性能を達成できそうです。」

艦長:「うむ。結構。」

艦長は満足そうにうなずいてパイプをふかすと、レーダー手の方を振り返って訊いた。

艦長:「周辺の敵企業の状況はどうか?」

レーダー手:「周辺海域にめぼしい敵影はありません。何隻か、我が艦に追いつこうと必死で互換機を開発して食いついてきていますが、我が社の主要顧客は我々の製品に満足しており、我が社が新製品を発表すると、スペックも確かめずに発注を入れて来ています。」

まさに、巨大企業グラン・ブルーは向かうところ敵なしの状況であった……。

見えない「敵影」

シュルルル……

静かな航跡が音もなく向かってきたかと思うと、

ガンッ!!

突然、機関室の壁に穴が空き、そこから魚雷の弾頭がつき出した。

「なんだぁ!」驚く機関士。

ピカッ、ドカーン!

「うわーっ」

轟音とともに弾頭が炸裂し、機関室はみるみるうちに火の手に包まれた。

ウー、ウー。

鳴り響くサイレン。

「対抗製品を撃てっ、消火班はどうしたっ!」

懸命の対策と消火活動むなしく、押さえていた市場が次々火に包まれ、ついには巨大な戦艦が真っ二つに裂け始める。

メキキキ……

「うわぁ」

「もうダメだぁ」

「逃げろぉ」

騒然とする艦内で、傾く羅針盤にしがみつきながら艦長はうめいた。

「むぅ、何故だ……。競争の感覚を十分研ぎ澄まし、重要な顧客の要望にも注意深く耳を傾け、研究開発にも積極的に取り組んできたというのに、何故やられねばならないのだ……。しかも、相手はオモチャのような小型企業の製品だ。我々の顧客は『そんな性能の低いものは要らない』と言っていたのに……。」

ドォッ

猛烈な勢いで艦内に海水が流れ込む。

ゴーッ

世界シェアの過半を握り、世界中に研究開発拠点を持っていたグラン・ブルーは、巨大な水柱を上げて沈没し、艦首とスクリューを最後に、大きな渦巻きを残して消えていった……

「破壊」はあなたの企業でも起こりうる

この架空企業戦記のように、業界で長い歴史と大きなシェアを誇っていた優良企業が、何の経営判断の失敗もなかったにもかかわらず、新たに参入してきた企業の「最初はオモチャのようだった」製品やサービスに、気づくとシェアを奪われ、負けてしまうことが、世界中の多くの産業で繰り返し起きています。

最近でも、日本企業がその創世記から開発をリードし、記録媒体であるフラッシュメモリの開発や、画像記録フォーマットの標準化などに多大な貢献をし、歴史的にも大きな世界シェアを占めていたデジタルカメラの売り上げが急激に減少し、スマートフォン付属のカメラに「破壊」されようとしています。

株式会社ニコン 映像事業部門売上推移
株式会社ニコン 映像事業部門売上推移

資料:「株式会社ニコン 財務データ集」をもとに執筆者作成

上のグラフは、戦艦大和の距離測定装置や、半導体の露光装置などの、極めて高い技術と工作精度が要求される製品を製造してきたニコンの、映像事業部門の過去10年間の売り上げの推移です。

2013年3月期には7,500億円を超える売り上げを誇っていた同部門ですが、わずか7年後の2020年3月期には売り上げが5,000億円以上減少して2,200億円にまで低下しています。

2021年2月4日付の新聞によると、ニコンが同日発表した2020年4~12月期の連結決算は、234億円の赤字だったそうです。

通常、企業の競争においては、歴史ある大企業の方が有利な点が多いです。(1)長年にわたる研究開発で蓄積した技術力を持ち、(2)今後の開発のための人材や資金も豊富です。(3)工場ではきちんと間違いなく製品を製造するための製造や品質管理の技術も持っています。(4)販売網にしても全国、あるいは全世界をカバーする流通網を持っており、(5)きめの細かいサービス網も既に構築が済んでいます。(6)顧客との長年の信頼関係を築いていますので安心して購入してもらえますし、(7)顧客の要望も吸い上げやすいです。(8)ブランド力だって既存大企業の方があるに決まっています。

では何故、これほど有利なはずの歴史ある大企業が、新たに参入してきた新興企業に「破壊」されてしまうことが、さまざまな産業で繰り返し起きているのでしょうか?

本連載ではこれから、この「破壊的イノベーション」と呼ばれる現象が起こるメカニズムと、「破壊される側」でなく「破壊する側」になるための新規事業の起こし方について、順を追ってわかりやすく解説していきたいと思います。しばらくの間、どうぞよろしくお付き合いのほどお願い申し上げます。

さらに勉強を深めたい方は、拙著『日本のイノベーションのジレンマ 第2版 破壊的イノベーターになるための7つのステップ』をお近くの書店等で手に取ってみてください。

PROFILE

玉田 俊平太

玉田 俊平太(タマダ シュンペイタ)

関西学院大学 経営戦略研究科 研究科長、博士(学術)(東京大学)

1966年東京都生まれ。東京大学卒業後、通商産業省(現:経済産業省)に入省。ハーバード大学大学院にてマイケル・ポーター教授のゼミに所属、競争力と戦略との関係について研究するとともに、クレイトン・クリステンセン教授から破壊的イノベーションのマネジメントについて指導を受ける。筑波大学専任講師、経済産業研究所フェローを経て現職。著書に『日本のイノベーションのジレンマ 第2版 破壊的イノベーターになるための7つのステップ』(翔泳社)、『産学連携イノベーション―日本特許データによる実証分析』(関西学院大学出版会)など、監訳にロングセラーの『イノベーションのジレンマ』(翔泳社)、『イノベーションへの解』(翔泳社)などがある。

  • ※この記載内容は、当社とは直接関係のない独立した執筆者の見解です。
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