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しゅんぺいた博士と学ぶ破壊的新規事業の起こし方

玉田 俊平太さんコラム - 第3回

ある企業にとっての「破壊的イノベーション」とは「顧客に見せると『そんなのオモチャだ』と言われるようなイノベーション」です!

前回、私たちは、イノベーションを「新結合」と理解しては、単なる組み合わせパズルのように捉えられてしまい良くないこと、「技術革新」と捉えては、あるアイデアが技術的に実現できたらそこで終わりと捉えてしまいかねず、イノベーションのプロセスが道半ばとなってしまいかねないことを学びました。

そして、イノベーションの

  1. (1)「技術や市場の機会を捉え」、
  2. (2)「新しい製品やサービスのアイデアへと転換し」、
  3. (3)「それを広く行き渡るようにする」

という一連のプロセスを「創新普及」と訳してはどうか?とご提案しました。

歴史ある大企業が得意な「持続的イノベーション」

経営学を少しでも学んだことのある方なら、企業の目的の一つが「顧客満足の向上」にあるということはご存知だと思います。合理的な経営者なら、最も収益性の高い顧客セグメントに対して、高い利益率で売れる、既存製品の性能を一層向上させるようなイノベーションに経営資源を投入するでしょう。

既存のガソリンエンジンを搭載した自動車より燃費が大幅に向上するハイブリッド車、これまでの白熱電球より省エネ性能が5倍、寿命は10倍近く長いLED電球など、既存製品(ガソリンエンジン車や白熱電球)のもつ、顧客が重視する性能(燃費や省エネ性能、寿命)が向上するタイプのイノベーションを持続的イノベーションと呼びます。

これらの新製品を既存顧客に見せると「おっ、良くなったね!買い替えようかな!」と喜ばれるでしょうし、多くの読者が「イノベーション」という言葉から連想するのは、この既存製品の性能が向上し、買い替えたくなる持続的イノベーションでしょう。

このタイプのイノベーションは、最も収益性の高い顧客に向けて高い利益率で売れることが見込まれるため、既存大企業には、その市場で積極的に戦う強い動機があります。だから、持続的イノベーションの競争で勝つのはほぼいつも、経営資源が十分にある既存大企業です。

持続的イノベーションは総力戦、竹槍でアメリカには勝てません

持続的イノベーションの中には、その製品やサービスなどの性能を徐々に向上させる「漸進的(incremental)イノベーション」もあれば、一気に性能を向上させてライバル企業を突き放す「画期的(radical, epoch-making)・革新的(revolutionary)イノベーション」もあります。これらのイノベーションは、技術進歩の方向が「既存顧客が重視する性能が向上する」という点で共通していますので、どれも持続的イノベーションの一種です。

そして、常識的に考えれば、顧客との関係性も経営資源も販売網もブランドも乏しい新興中小企業が、歴史ある大企業と真っ正面から競争して勝つのは至難の業です。実際、「今いる顧客に向けて、今ある製品・サービスをより良くする」という競争において、既存の大企業は圧倒的な強さを示します。ですから、中小・ベンチャー企業が新しいビジネスモデルを考える場合、既存大企業とガチで殴り合う持続的イノベーションの形に作り込んでしまうと、既存企業と同じレッド・オーシャンの土俵の上で、血みどろの総力戦を繰り広げざるを得なくなり、得策ではありません。

ベンチャー企業や中小企業が目指すべき「破壊的イノベーション」

大企業と同じ土俵で勝負をすると不利だとわかっているのに、業界横並びで激しい市場競争を繰り広げ、低い利益率で甘んじている企業がよく見られます。経営者としては、他社がやっていると自社も安心して参入でき、逆に、他社がやっていないことをするのは恐ろしいのかもしれません。

しかし、相場の格言「人の行く、裏に道あり、花の山」や、ソニーの前身、東京通信工業の設立式での井深氏の挨拶、

「大きな会社と同じことをやったのでは、我々はかなわない。しかし、技術の隙間はいくらでもある。我々は大会社ではできないことをやり、技術の力でもって祖国復興に役立てよう」(出典:Sony History 第1部 第1章 焼け跡からの出発 第2話 東京通信工業株式会社)

から学べることは、小さな企業が大きく成長するためには、大企業が入ってこなかったり、道を譲ったりするような特性を持つ破壊的な新製品や新サービスを創り出すことが必要不可欠だということです。

大企業やその顧客から「オモチャ」に見えるようなイノベーションを目指そう!

ベンチャー企業や中小企業が目指すべき、破壊的(disruptive)イノベーションとは、「既存企業の主要顧客には性能が低過ぎて魅力的に映らないが、新しい顧客やそれほど要求が厳しくない顧客にアピールするような、シンプルで使い勝手が良く、安上がりな製品やサービス」です。

別の言い方をすれば、破壊的イノベーションから生まれた製品やサービスは、既存企業の主要顧客が重視する「性能が低過ぎるため、既存製品の主要顧客に見せても見向きもされず、オモチャ呼ばわりされる」イノベーションだと言えるでしょう。

イノベーションのタイプ分け
イノベーションのタイプ分け

資料:「日本のイノベーションのジレンマ 第2版 破壊的イノベーターになるための7つのステップ」をもとに執筆者改訂

この破壊的イノベーションの定義は、イノベーションという言葉から我々がイメージする「性能向上」とは真逆なので、とても直感に反する(counter-intuitive)概念です。クリステンセン教授自身も、『イノベーションへの解』の中で、

「学生や経営者がこの持続的技術と破壊的技術の区別について読み、解釈し、論じ合う様子を観察したところ、驚くほど共通の傾向が見られた。おそらく誰もがすることだが、新しい概念やデータ、ものの考え方に直面すると、自分の頭の中にあるメンタル・モデルの枠組みに適合するように、それを変形させるのだ。我々の『持続的イノベーション』という用語を、既存の『漸進的』イノベーションの枠組みと同一視し、『破壊的技術』を『急進的』『ブレークスルー』『独創的』または『異なる』技術といった用語と同等に扱う人が実に多い」

と嘆いています。つまり、アメリカのハーバードビジネススクールの学生たちや世界トップ企業の経営者たちであっても、クリステンセン教授の破壊的イノベーションの概念を誤解する人がとても多いということなのです。

しかし、既にご理解いただいたように、そもそもイノベーションとは「新しいものを創り出して普及すること」であり、必ずしも性能が向上すること(持続的イノベーション)のみを指しているのではないのです。

大企業が「破壊」されるメカニズム

破壊的イノベーションは、既存大企業から見ると、自社の「既存製品の主要顧客が重視する性能が、少なくとも一時的には低下する」タイプのイノベーションです。ですから、こうした破壊的イノベーションの製品やサービスは、既存大企業のお得意さんに見せると、求める性能が不足しているため

「そんなのオモチャだ、ウチは要らない」

と言われてしまいます。

しかし、大手優良企業の足をすくい、ときに破滅に追い込むのは、こうした破壊的イノベーションなのです。何故なら、大手企業には、一番重要な顧客の声に注意深く耳を傾け、その声に応えるべく、出されたアイデアの中から顧客を一番満足させるようなものを選び出し、資源を優先的に投入して、いち早く製品化することで利潤を最大化するようなメカニズム(合理的意思決定)が整備されています。だから、顧客満足が向上するような性能向上(持続的イノベーション)のプロジェクトにはすぐにゴーサインが出て、十分な経営資源が投入されるため、持続的イノベーションの競争で負けることはまずありません。

しかし同時に、この合理的経営メカニズムがあるが故に、破壊的なアイデアは排除され、そこから資源が取り上げられてしまうことになるのです。そして、破壊的イノベーションから生まれた製品の性能が徐々に向上し、主要顧客が求める性能に達したときになってから、押っ取り刀でそこに参入しようとしても既に手遅れで、第1回で出てきた巨大企業戦艦「グラン・ブルー」がそうであったように、気づいたときには破壊的イノベーターに打ち負かされてしまうことになるのです。

さらに勉強を深めたい方は、拙著『日本のイノベーションのジレンマ 第2版 破壊的イノベーターになるための7つのステップ』をお近くの書店等で手に取ってみてください。

PROFILE

玉田 俊平太

玉田 俊平太(タマダ シュンペイタ)

関西学院大学 経営戦略研究科 研究科長、博士(学術)(東京大学)

1966年東京都生まれ。東京大学卒業後、通商産業省(現:経済産業省)に入省。ハーバード大学大学院にてマイケル・ポーター教授のゼミに所属、競争力と戦略との関係について研究するとともに、クレイトン・クリステンセン教授から破壊的イノベーションのマネジメントについて指導を受ける。筑波大学専任講師、経済産業研究所フェローを経て現職。著書に『日本のイノベーションのジレンマ 第2版 破壊的イノベーターになるための7つのステップ』(翔泳社)、『産学連携イノベーション―日本特許データによる実証分析』(関西学院大学出版会)など、監訳にロングセラーの『イノベーションのジレンマ』(翔泳社)、『イノベーションへの解』(翔泳社)などがある。

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