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Web3は非中央集権の社会構造を達成し、個人の力を強化するか

岡嶋 裕史さんコラム - 第1回

Web3が持つ思想性

技術と思想は同梱されていることが多い。むしろそれは自然なことだろう。技術は何かをなすためのツールであるから、平等を実現するためにインターネット関連技術を開発する、といったあり方は不可避的に発生するのだ。

Web3もそうである。Web3はイーサリアムの共同創設者であるギャビン・ウッドが提唱したインターネット上の新しいオーバレイネットワークだと思う。

「思う」という書き方をしたのは、Web3という名称に原因がある。私自身はWeb3を定義するときは上記の表現をベースにするのが良いと考えるが、Web3という名前はWebの発展系であることを強く示唆する。実際に、一般に流布しているWeb3の説明は、そう記述されることが多い。

最も典型的な言い方としてはこうなるだろう。

従来型のWebは中央集権型の構造を持っていた。そのため、GAFAなどの巨大IT企業の跳梁(ちょうりょう)を許してしまった。これからは個人の手に主権を取り戻さなければならない。それを実現する新しいWebの形がWeb3である。

ただ、私はこの言い方は間違っていると思う。Web3はWebの発展系ではないからだ。Webは技術的な背景としてHTTP、HTML、URIなどを中核に持つWebページ閲覧システムである。技術マニュアルなどでは資料をページ数ではなく重量で量るような現場もある。

そうした資料類を紙で管理することには限界がある。少なくとも快適な読書体験ではない。そこで電子化するとともに、各地に分散したドキュメントを、場所を意識せずに連続閲覧する位置透過性や、映像や音像も文書内に包含することができるマルチメディア性を持たせたのがWebの原型である。

Webの情報構造は電子書籍のそれとほとんど変わらないが、この来歴を知れば当然であると言える。それがインターネットという世界中に張り巡らされることになった情報網の上に構築されたので、「個人が世界に対して発信できる」といった属性が後から強調されることになった。

ただし、初期のWebはお世辞にも「個人が世界に対して発信できる」類いのものではなかった。個人の主体的な情報発信に際しては、HTTP、HTML、URIを理解しておく必要があった。技術者水準ではともかく、たとえば一般的なパソコン利用者でこれを知悉(ちしつ)するものはまだ多くなかった。

そこで、Web2.0という潮流が生まれた。Web2.0はそういう技術があるわけではなく、単にマーケティング用語である。Webの原型は個人の情報発信の道を拓いた。しかし、技術的な難しさゆえに個人がそれを十全に使いこなしたとは言えない、という反省から簡単に情報発信ができることが目指された。典型的なサービスとしてはブログがある。

確かにブログであれば、HTTPやHTMLに精通していなくても文章を記述していくだけで、世界に対して情報を発信することができる。また、ajaxなどの技術を使うことでGoogleMapに代表されるような動的なWebページを作成する手法も洗練された。GoogleMapを個人が作ることは難易度が高いが、こうしたサービスを組み合わせる(マッシュアップ)ことで素早く自分、自組織向けにカスタマイズされたWebページを作ることも容易になった。たとえば、自店舗の位置をGoogleMap上に表示するような使い方である。

これらを総じてWeb2.0と呼んだ。洗練されたWebページを容易に素早く、世界へ向けて発信することができれば、これまで大資本の陰に隠れていた個人や零細企業が世界と対等に向き合える、ビジネスができると喧伝(けんでん)されたのである。往事のビジネス誌には町工場がブログをきっかけに海外と取引を始めた事例などが踊った。

しかし、Webのしくみそのものが更新されたわけではない。相変わらずWebサイトを構築するのにHTTP、HTML、URIは必須であった。ブログでこれらがいらなくなったというのは、ブログシステムを構築できるようなエクセレントカンパニーがこれらを集約し管理してくれたからで、言葉を換えれば個人はこれらのエクセレントカンパニーを経ずにWebを使えなくなったのだとも言える。この時期にGoogle、Amazon、Facebook、Appleら、いわゆるGAFAが躍進したのは偶然ではない。Webは便利になったが、巨大IT企業への依存と集中の度合いが強くなった。

Web3はこれら寡占企業への集中に対する反省から台頭した。情報を保有する権利、活用する権利、そこから利潤を得る権利を個人に取り戻そうとしているのである。ギャビン・ウッドはすべての信頼は悪であると言う。だから、GoogleもAmazonも信用せず、自分がすべてを把握し、検証し、使えるインターネットを目指すのである。そこにWeb3という名前をつけた。

したがって、Web3はWebではない。他者を信頼せずに成立する決済、他者を信頼せずに預けられるストレージ、他者を信頼せずに完結する演算処理といった要素は、すでに情報閲覧・共有システムとしてのWebの包含範囲を大きく逸脱している。Web3はインターネットをベースに新しい社会インフラを構築しようとする試みで、Webの名を冠しているのがおかしいのだ。

Web3を理解するには、「インターネットをする」という言い方を理解する必要がある。コンピュータやネットワークに詳しくない人は、ローカルアプリケーションを使っていても、イントラネットを使っていても「インターネットをする」と表現することがある。Web3も同じである。その成り立ちも技術的背景もWebではないが、ネットワークに立脚したサービスなので慣習的にWebと呼んでいるだけである。

Web3の実体は、非中央集権システムで世界を再構築するという思想である。その思想を実現するための技術基盤としてブロックチェーンを使う。そう捉えるべきである。

そして、私はこのWeb3という試みはうまく行かないと考えている。その理由は2つである。利用者が望んでいないことと、実現手段としてブロックチェーンに依存し過ぎていることである。

PROFILE

岡嶋 裕史

岡嶋 裕史(オカジマ ユウシ)

中央大学国際情報学部教授、中央大学政策文化総合研究所所長

1972年東京都生まれ。中央大学大学院総合政策研究科博士後期課程修了。博士(総合政策)。富士総合研究所勤務、関東学院大学経済学部准教授・情報科学センター所長を経て、現職。総務省「Web3時代に向けたメタバース等の利活用に関する研究会」構成員。内閣府「メタバース官民連携会議」構成員。『ポスト・モバイル』『ビッグデータの罠』(新潮社)、『ハッカーの手口』(PHP研究所)、『思考からの逃走』(日本経済新聞出版)、『ブロックチェーン』(講談社)、『Web3とは何か』(光文社)など著書多数。NHK総合「クローズアップ現代」、テレビ東京「WBS」など出演多数。

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