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関係と承認の新たなテクノロジーが社会を変える

佐々木 俊尚さんコラム - 第1回

メタバースの本質は、コミュニケーションのアップデートである

メタバースという用語が流行っています。ひと言で説明すれば、「インターネットの中につくられた三次元の仮想世界」。メタバースと並行してVR(仮想現実)やAR(拡張現実)などの用語もありますが、これらは仮想世界にアクセスするための機器のことで、総称してXRテクノロジーと呼ばれています。

大きなヘッドマウントディスプレイを頭部に装着し、仮想世界に没入できるのがVR。没入感はすごいのですが、現実の風景はまったく見えなくなってしまいます。これに対して透過式のメガネ型を使い、仮想の世界とリアル風景を重ね合わせて見るのがARです。今のところはVRが先行しており、いくつかの製品が実際に販売されています。ARは技術的に難しく、いくつかの製品はあるものの一般的ではなく、まだ道半ばといったところでしょう。

メタバースが普及すると、社会はどう変わるのでしょうか。

それを考えるには、メタバースがどのように普及していくのかをイメージする必要があります。VRが主軸となって盛り上がっている現在の状況では、メタバースは実社会とはまったく異なる世界であり、人びとは自分の姿と異なるアバターをまとい、実人生とは異なる人格を装うことができるということが喧伝されています。

これは面白い方向性だとは思いますが、リアル社会とはまったく別の世界をつくるというのは実は難しいのではないか。わたしはそう考えています。これはツイッターやブログなどのインターネットの歴史を見ればわかります。ネットが社会に普及しはじめた2000年前後には、「ネットの世界はリアルとはまったく異なる楽園だ」というような意見をよく見ました。たしかに当時のネットの世界は一般社会からはあまり認知されておらず、自由に発言し、遊ぶことが可能でした。

しかし2010年代になって日本社会の過半数の人がツイッターなどのSNSを使うようになり、だんだんと雰囲気は変化していきます。「風紀委員」みたいな人がたくさん現れて、野放図な発言は批判されるようになり、世間の抑圧のような雰囲気も出てきて息苦しさも感じるようになりました。気がつけば日本のネットは、日本社会の縮図のようになってきたのです。

メタバースでも同じことが起きる可能性は否定できないでしょう。いまのメタバースは、テクノロジーに明るく先端的な人たちが使っているユートピアですが、いずれ普及して一般社会の多くの人たちが流入してくれば、SNSと同じ道をたどるのではないでしょうか。

とはいえ、SNSに価値がなくなったわけではありません。たしかに、初期に利用者が夢想したような「楽園」にはなりませんでした。しかし現在では人間関係を維持するための便利なツールになっており、同時にツイッターなどはさまざまなニュースや情報が流れるプラットフォームにもなっています。SNSに限らず、どんな新しいテクノロジーであっても、登場した初期に先端的な人たちに使われているときと、それが社会に広く普及してきたときでは、「使われかた」はまったく異なるのです。

ではメタバースが一般社会に普及していくとすれば、その先にはどのような価値をもたらすのでしょうか。わたしは二つの大きな価値があると予測しています。第一には「コミュニケーションの多様化」であり、第二には「居場所の多様化」です。

ひとつずつ説明しましょう。

まず「コミュニケーションの多様化」について。振り返れば、かつては人との通信手段は実際に対面するか、そうでなければ紙の郵便ぐらいしかありませんでした。そこに電話が登場し、ファクスが登場し、ネットによって電子メールやメッセンジャーが可能になり、最近ではズームのような動画のチャットも可能になってきています。メタバースは、人とのコミュニケーションをさらに拡張していきます。

メタバースなら、たとえば見知らぬ人との会話が苦手な「人見知り」な人でも、アバターをまとうことによって気楽にしゃべることができるかもしれません。自分自身の外観やしゃべり方などをデザインして、「なりたい自分」でコミュニケーションをとれるようになるのです。また現在のズームなどの平面的な動画チャットと異なり、3Dのメタバース空間では相手との距離をもっと縮めて、間近に相手の存在を感じながら会話することもできます。

ネットがなかった古い時代には、強引で声の大きい人の方が意見を通しやすいというようなこともありました。しかしネットが普及してテキストで会話できるようになり、口下手な人も自分の意見をきちんと伝えられるようになりました。コミュニケーションが拡張され多様化すれば、あらゆる人がそれぞれ自分の好きな方法で意見や感想を伝えられるようになり、これは「コミュニケーションの民主化」と言えます。メタバースはこのようなコミュニケーションの民主化にさらに寄与するのです。

次に、第二の「居場所の多様化」について。

新型コロナ禍でオンラインミーティングが当たり前になり、田園地帯からでもリゾート地からでも参加できるようになって、休暇をとりながら仕事をするワーケーションという用語も広まりました。個人の居場所を拡張し、「どこにいても仕事ができる」ようになってきたのです。メタバースはこの方向をさらに推し進めることができるでしょう。

単に遠隔地からでもメタバースに参加できるというだけではありません。メタバースとリアル空間が複雑にからみあうことで、もっと自由なかたちで移動ができるようになる可能性があります。たとえば韓国の自動車メーカーであるヒョンデ(ヒュンダイ)は、「メタモビリティ」という概念を提唱しています。これは情報の移動(メタバース)と空間の移動(モビリティ)を組み合わせたものです。

いまのメタバースは、仮想空間の中で完結しているので、外のリアル空間とは接触しません。メタバースで乗りものに乗ったとしても、実際にリアル空間を移動できるわけではないし、仮想ペットにエサをやっても、飼っているリアルのイヌやネコのお腹が満たされるわけではないのです。

しかしメタモビリティでは、そういうことができるようにしようと考えています。たとえばわたしが外出先で、メタバースの中の仮想自宅に入って、そこにいる仮想ネコにエサをやる。そうするとリアルの自宅にいるロボットが、わたしの代わりにリアルのネコにエサをやってくれるのです。わたしが仮想ネコをメタバースで抱きしめると、ロボットが同じようにリアルネコを抱きしめてくれるのです。

このメタモビリティはいろんな応用が考えられます。たとえば工場で動くロボットを、遠い土地から人間が操作するといったことが考えられます。新型コロナ禍ではリモートワークが普及しましたが、パソコンを使ったデスクワークだけでなく、現場の仕事でもリモートワークを導入できるようになるかもしれません。

メタモビリティが実現するのは、ロボットが私たち自身の物理的な感覚の延長となり、私たちの手足や目や耳や鼻が、現実に届く以上の遠くにまで届くことができるようになるということです。

メタモビリティの好例として、「OriHime(オリヒメ)」という日本の分身ロボットがあります。これは吉藤健太朗さん率いるオリィ研究所が開発しているロボットで、筋萎縮性側索硬化症(ALS)などの難病患者がリモートで病床から操作し、カフェで接客をしたりと社会と接点を持つことができるものです。オリヒメを操作する難病患者はベッドの上にいて、物理的には移動していません。しかし遠隔のカフェにメタバース経由で移動しているとも言えるのです。

またイタリアでは、人のかたちをしたロボットを300km離れた場所から遠隔操作するシステムの実験が行われています。操作するオペレーターはヘッドマウントディスプレイや腕、指などの動きを検知するセンサーを装着し、これによってオペレーターの身体の動きや顔の表情、発した声などがロボットに伝達されたそうです。またロボットからも視覚や聴覚、触覚などのフィードバックがあり、これをオペレーター側も感じることができたとか。

リアルの空間を移動するためには、自動車や鉄道、バスなどに乗らなければならず、お金がかかります。もちろん時間もかかります。どんなにお金持ちであっても、東京からパリやベルリンに行くのには十数時間かかります。時間は貧富にかかわらず平等なのです。しかしメタバース経由で情報が移動するだけなら、お金も時間もほとんどかかりません。ほぼ無料で瞬時に移動できるのです。メタモビリティのようなサービスが安価に使えるようになれば、貧しき者も富める者も、同じように瞬時に移動できるようになることでしょう。

これは私たちの日常の生活を、大きく変える可能性を秘めています。メタバースは単なる「仮想空間」としてではなく、このように暮らしと融合し、暮らしを一変させるテクノロジーになり得るのです。

PROFILE

佐々木 俊尚

佐々木 俊尚(ササキ トシナオ)

作家、ジャーナリスト

1961年兵庫県生まれ。愛知県立岡崎高校卒業、早稲田大学政経学部政治学科中退。毎日新聞社などを経て2003年に独立し、テクノロジーから政治、経済、社会、ライフスタイルにいたるまで幅広く取材・執筆・発信している。総務省情報通信白書編集委員。『現代病「集中できない」を知力に変える 読む力 最新スキル大全』(東洋経済新報社)、『時間とテクノロジー』(光文社)、『キュレーションの時代』(筑摩書房)、『「当事者」の時代』(光文社)など著書多数。Twitterのフォロワーは約79万人(2022年11月24日現在)。東京・長野・福井の三拠点移動生活中。

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