もう一つのファクターbitcoin-「変わる金融市場の景色」 - 伊藤 洋一の視点(伊藤 洋一さんコラム - 第21回)

伊藤 洋一の視点

「変わる金融市場の景色」というタイトルを裏付ける現象が、通貨の分野で起きつつある。主役は仮想通貨ビットコインだ。価格は2020年の春から静かな、しかし持続的な上昇傾向を示してきたが、同年12月に1ビットコイン=20,000ドルを突破した後は一気にチャートを駆け上がり、最近では一時同60,000ドルに達した。

ビットコインが前回話題になったのは2017年末から2018年年初にかけて。その時はビットコインなど非法定通貨の人気増大が、経済・社会の混乱や政府批判に繋がらないかを懸念した中国政府が規制措置を取ったことなどから反落。世界各国の政府も概ね同通貨に対しては批判的だった。その時の相場のピークは20,000ドル。

私はラジオ番組でビットコインの急騰を扱った2017年に「知らないで語るのも」と思い少量買った。それをビックカメラとか聘珍樓(へいちんろう)で使って「支払い手段になる」とラジオで語ったのを覚えている。確か日比谷の聘珍樓で最初にビットコインを使った客は私で、処理が分からずレジ担当者が交代したり大変だった。

その後ビットコインは低迷した。時には5,000ドルを大きく下回った。それが2020年の秋から急騰。二つの要因が考えられる。一つは株価の大幅上昇、もう一つはコロナ禍。

投資家というのは不思議な存在で、自分の資産が膨らめば膨らむほど不安になる。「もう売った方がいいのでは、他に有力な資産はないのか」と。私は株高の恩恵を受けた人々の一部は、ビットコイン資産を殖やしたと思う。加えてコロナ禍故の新規・若手投資家の増加。これについては既に第19回・第20回で書いた。株の取引口座はアメリカでも日本でも急増した。多分ビットコイン口座も増えた。

それに加わったのが機関投資家だ。「彼等は運用対象の見直し」を常に行っているが、一部の機関投資家がビットコインを投資対象の中に入れた、と報道されている。まだ多くの人が持っていない資産は、買われ始めると値上がりスピードは速い。実際にビットコインはそうだった。私はごく少量のビットコインの使い残しを「bitFlyer(ビットフライヤー)」というアプリに残しているが、値動きくらいは確認できる。驚きの連続だ。

ビットコインを巡る情勢を一番大きく変えたのは、アメリカの電気自動車メーカー・テスラの決定だと思う。注目を浴びたのは、証券取引委員会(SEC)に同社が提出した2020年度の年次報告書。それによると、同社は「投資に対する方針」を1月に更新し、それに基づき会社の資金15億ドルをビットコインに投資したと公表した。これが「アメリカの一般事業会社の間でも仮想通貨、特にビットコインを将来の事業展開の視点から導入する動きが活発化する」との見方を強めた。その時点でビットコインは史上初の47,000ドルと報道された。覚えておられる方も多いと思う。

「事業展開」と書いたのは、テスラ社が「製品(車)に対する支払いにおいて、ビットコインの利用を受け入れる準備を検討している」ことも明らかにしたからだ。つまり、スマートフォンにビットコインを扱えるアプリを入れていて、かつ一定の残高があれば、私達はテスラのディーラーで「ビットコイン支払いによる車の購入」ができると言うことだ。テスラはその時期に関して、「近い将来」と述べている。

イーロン・マスクは最近、Clubhouseで「8年前にビットコインを買っておくべきだった。現時点でビットコインは良いものだと思うし、僕は支持している」とコメントしている。「奇抜な会社を経営する企業家の発想」とする向きもある。

しかし「車」という代表的大型消費財の地位は今後も揺るがないと見られているだけに、影響力は大きい。ものづくりが基幹産業である日本の企業にも、少なからず影響を与えるだろう。実は中央銀行は、続々公的なデジタル通貨の検討を進めている。2018年は一時的なブームに終わった。

中央銀行の姿勢も様変わりしている。例えば、日銀は昨年10月に「中央銀行デジタル通貨に関する日本銀行の取り組み方針の公表について」という文章を掲載した。この種としては初めて。

「情報通信技術の急速な進歩を背景に、内外の様々な領域でデジタル化が進んでいる。技術革新のスピードの速さなどを踏まえると、今後、「中央銀行デジタル通貨」(Central Bank Digital Currency:以下「CBDC」)に対する社会のニーズが急激に高まる可能性もある。日本銀行では、現時点でCBDCを発行する計画はないが、決済システム全体の安定性と効率性を確保する観点から、今後の様々な環境変化に的確に対応できるよう、しっかり準備しておくことが重要」と取り組み開始の考え方を公表した。

CBDCは世界各国で検討が進められ、既に国民の一部に配布した国もある。CBDCができたらビットコインなど民間の仮想通貨は役割を終える、と考えるのは間違っている。CBDCはローカルだが、ビットコインはそもそもの存在がグローバルで、その支払いをどこでもできる。恐らく通貨全体のデジタル化が進む中で、ビットコインを初めとする民間仮想通貨は、その存在感を高めるだろう。今の仮想通貨のブームは、「金融市場の形」を変える可能性が高い。

例えば5年後には、「金融資産の5割はビットコインで持つ」といった投資家が日本でも増えるかも知れない。

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PROFILE

伊藤 洋一(いとう よういち)

伊藤 洋一(いとう よういち)

経済評論家

1950年長野県生まれ。現在、(株)三井住友トラスト基礎研究所主席研究員。金融市場からマクロ経済、特にデジタル経済を専門とする。著書に『本当はすごい日本の産業力』(PHP出版)、『グローバル資本主義の未来』(NHK出版)、『日本力』(講談社)、『ITとカースト:インド・成長の秘密と苦悩』(日本経済新聞出版社)、『カウンターから日本が見える』(新潮新書)など。「10代で学ぶ・金融そもそも講座」などに書評、エッセイ、評論などを定期寄稿。

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