ネットとリアル、厳しくなる陣取り合戦-伊藤 洋一の視点(伊藤 洋一さんコラム-第10回)

伊藤 洋一(いとう よういち)

日本でも存在感は大きいが、本場のアメリカではアマゾン・パワーがあまりにも強いために、同社の経済全般に及ぼす影響について「新語」がいくつも登場している。

伊藤 洋一(いとう よういち)

例えば「Amazonification of Main St.」(メインストリートのアマゾン化)。従来小売りの現場では各店舗がサービスを競い、それ故に時に割高な商品の販売が可能になって、小売り各社の業績を高く保った。様々な業態(ショッピング・モール、デパート、スーパーマーケットなど)が繁盛する基礎になっていた。しかしアマゾンがネットショッピングを全米で広げ人々がそれに慣れたことによって、言ってみれば一物一価、それも安い方での価格形成が進み、お客が大量にネットに流れてモールなどが全米でバタバタとつぶれる事態になった。小売業はある意味、アマゾンに吸収されつつある(アマゾン化)。

しかしもっと広い範囲でのアマゾンの影響力増大を指す言葉がある。それが「Amazon Effect」(アマゾン効果)だ。小売りのみならず、あらゆる企業・産業をアマゾンが飲み込むことを意味する。アメリカでこの話題に関心のない大企業の経営者はまずいないとも言われる。

アメリカの経営者は「いつ自分の業界・会社がアマゾンに飲み込まれるのか」で戦々恐々だ。なぜならアマゾンは従来小売業が扱ってきた商品だけでなく、車から医療、金融、ITに至るまであらゆる人間の経済活動をネットショッピングの対象にしつつあるからだ。

その「アマゾン化」「アマゾン効果」がどこまで進み、どこで限界にぶち当たるのかが筆者の最近の大きな関心事だ。アメリカでまずアマゾンの経済活動に及ぼす影響力が顕在化した背景には、一人当たりにした場合の店舗面積が日本などに比べて小さいことなどが指摘されている。実店舗が遠いため、人々は何かを買おうとするときに先ずネットに相談した、というのがアメリカの実体だ。しかしあらゆる小売り業態が近隣に揃っている日本でも「アマゾン化」「アマゾン効果」は見られる。日本人の消費レベルはそれほど落ちていないのに、デパートやスーパーの衣料などのセクターではここにきて売り上げが落ちている。

単なる節約傾向だけではない。若い消費者は、実質的には品揃えが無限なネットで自在に商品を選び、コーディネートを楽しみながら買い物をする。実店舗での品揃えには厳しい現実がある。筆者も商品の選択、比較をするときにはまずネットを見る。数限りない同種商品が直ぐに比較(形、値段など)できる。実店舗は全くかなわない。「どこまで進むアマゾン化……」と思っていたのだ。

その疑問への回答の一端を見たのは、アマゾン自体の動きだ。6月中旬に発表になったアマゾンによる高級食材チェーン、ホールフーズ(Whole Foods)買収計画。買収額は137億ドル(1兆5,600億円)にも達する。なぜアマゾンは実店舗のチェーンに丸ごとの買収をもちかけたのか。

少し考えたら答えが見えた。どこの家庭でもそうだと思うが、我が家はクールなど食品の宅配便受け取りにはとても気を使う。不在だったとき「次はいつ来てもらうか」と日程を調整する。冷蔵・冷凍食品は時間の経過に弱いので、早く受け取らないと美味しくいただけない。先日野菜工場のレタスを送ってもらったが、最初受け取れなかった。その後とっても気になった。

最近デパートに行くと上の階の閑散化を尻目に、地下街の人の多さに圧倒される。大体のデパートで食品・生鮮食料品取扱の階だ。消費者はネットでの購入・自宅受け取りが逆に不便な食品を中心に実店舗での歩きながらの選択・購入を行っていると思う。アマゾンはそれに目を付けたのだ。朝アマゾンなどネットの幅広い選択肢の中で購入品を選び、実店舗(ホールフーズなど)に足を運んで注文品を受け取れるとしたら、それはそれで消費者にとって便利だ。ついで買いも可能で、時間を気にしながら家で待つ必要がない。アマゾンが目を付けたのはそこだ。

英紙FTは「将来のショッピングは、オンラインとオフライン(実店舗)のハイブリッドになる」と書いた。面白い表現で、同紙はさらに「彼等はちょうど中間地帯で出会っている」とも指摘。アマゾンが実店舗のホールフーズを買収したのと全く同じ時期に、米小売業の巨人ウォルマートは、男性衣料品オンライン販売のボノボを買収したからだ。アマゾンとウォルマートは中間点で刃を交えようとしているように見える。

「オンラインとオフラインのハイブリッド」は、今後いっそう各所で起ころう。問題はどの業種でどのような「ハイブリッド形」が成立するかだ。多分それは業種、地域によって違う。むろん国によっても大きく違う。

ある調査会社の分析によると、日本は世界の中でもアマゾンが経済に影響を及ぼしている度合いが大きい、との分析がある。一方で日本の都市は人口一人当たりの店舗面積は恐らく世界でも広い方だ。つまり実店舗の選択の幅が大きい。としたら、ネットとリアルは日本ではどこで出会うのか……。

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PROFILE

伊藤 洋一(いとう よういち)

伊藤 洋一 (いとう よういち)

経済評論家

1950年長野県生まれ。現在、(株)三井住友トラスト基礎研究所主席研究員。金融市場からマクロ経済、特にデジタル経済を専門とする。著書に『本当はすごい日本の産業力』(PHP出版)、『グローバル資本主義の未来』(NHK出版)、『日本力』(講談社)、『ITとカースト:インド・成長の秘密と苦悩』(日本経済新聞出版社)、『カウンターから日本が見える』(新潮新書)など。「10代で学ぶ金融そもそも講座」などに書評、エッセイ、評論などを定期寄稿。

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