私のビットコインは……?-伊藤 洋一の視点(伊藤 洋一さんコラム-第11回)

伊藤 洋一(いとう よういち)

ネットとリアルが絡み合って「新しい経済の形」構築が進んでいることを前回は見た。一方、将棋の藤井聡太4段の掛け値なしの人気と、それが将棋盤の売り上げ増にまで繋がっている現実を見ると、コンピューター社会と人間社会は逆に距離を置くケースも増えるかも知れないとも思う。100メートル競走の相手にチーターやポルシェを選ぶ人はいない。違いすぎる。所詮「人間の将棋」と「コンピューターの将棋」は別物で、動物たる我々人間はやはり「人間の活躍」を見たいのだ。藤井聡太、頑張れ……。

伊藤 洋一(いとう よういち)

そう思っても重要なポイントがある。それはAI、クラウドなどを中核とするコンピューター、ネットの仕組みが人間社会にとっての「新たなインフラ」になりつつある事だ。いや「インフラ」と言う言葉は誤解を生むかも知れない。インフラには「橋や道路のように一回作られると長持ちする社会の基盤」といった意味合いがあるからだ。「ITは人間社会にとっての新たなインフラ」と言うと、それで分かったような気になる。

しかし考えても見よう。頻度とスピードが違う。既存のインフラも進化する。例えば鉄道も石炭を燃やす蒸気から電気へ、そして今や世界中で走っている新幹線タイプまで。いずれも変化には長い時間がかかっているが、ITというインフラは日々刻々変容していると言って過言ではない。スマホを見ていると毎日のようにアプリのアップデートが来る。アプリはちっちゃな社会・情報基盤だが、スピードは速く、頻繁に変わっている。それが重要。スマホが使う電波は3Gから4G、さらには今後の5Gと代わる中で「できる事」は大幅に変化する。

ITの変化を語るとき「ムーアの原則」がよく紹介される。「半導体の集積率は18カ月で2倍になる」というものだが、IT社会全体で言うと、もっともっと素早くITは社会を変えているように思える。重要なのは、それが簡単に「国境を越える」ということだ。むろん「情報遮断」は様々な国が採用している。しかし情報はIT社会では遮断してもどこからか伝わる。道路や鉄道のような基本一本線ではなく「立体的網の目」のような構造をしているからだ。故に世界で急速にその存在感を高めているアジアのある国では、「ネット監視」だけで数万人の人員を当てている。それでもネットの情報は伝わる。

故に株式市場では、世界的なIT企業は今年に入って「一番注目される業種」になっている。トランプ政権の目を覆うばかりの混乱ぶりにも関わらず、アメリカの株式市場は新値を追うなど極めて好調。その一つの背景は、アマゾンやグーグル、それにフェイスブック、ネットフリックスなど簡単に国境を越えて世界で勝負する企業が、ほぼ全部アメリカに本社を置くことだ。これらの企業の影響力は強烈だ。ハイテク株が多い米Nasdaq市場でも、さらに時価総額が大きくて値動きも激しい銘柄を集めたNasdaq100が、マーケットで一番注目される銘柄群になっている。それが何を意味するかというと、アメリカのこうした大手IT企業の株式は、「アメリカの株」というより「世界の株」(世界的な資金を集めるという意味で)になったということだ。故にアメリカという一国の政治混乱など材料にもしない。

簡単に国境を越え、政府の力も及ばなくなったITは、世界の希望でもあるし、懸念の的でもある。「希望」とは、相対的に政府の役割を小さくして、世界中の利用者の声がネットを通じて広まるために、政治がオープンになる可能性がある。最近はしばしば「情報の出しすぎ」(例えばホワイトハウス情報など)という状況もあるが、隠されてしまうよりはましだろう。その一方で、国の力を越えたパワー故に、「混乱が起きたときに誰も収拾する人がいない」という問題も発生している。

この原稿を書いている時点で、その象徴とも言えるのはビットコインの分裂だろう。インターネット上で取引や通貨発行が行われる「分散型仮想通貨」だ。普通の通貨は当該国の中央銀行が価値を管理している。しかしこのビットコインは採掘業者の合議で運営されるため、その業者が取引記録方法を巡って分裂した結果、通貨も分裂して、ビットコインとBCC(ビットコイン・キャッシュ)の二つになってしまった。

筆者もビットコインを少量持っている。概念的に把握しているよりは実際に持ってみた方が良いと思ったからだ。聘珍樓(へいちんろう)、ビッグカメラなどでの支払いに使った。しかし分裂となって、今後どうなるのか。新しいものが出てくるときには混乱は付きものだ。しかしビットコインを使う人がまだ少なかったから良いが、大規模に使われていたら世界経済が混乱したかも知れない。

車社会もそうだったように、IT社会にも当然試行錯誤がある。しかし自動運転などITは車社会もがらっと変えようとしている。だから恐らく今後のIT社会がもたらす変化の方が、我々が今まで経験した全ての変化より激しいのだろう。変化は楽しみだ。しかし備えねばならない。

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PROFILE

伊藤 洋一(いとう よういち)

伊藤 洋一 (いとう よういち)

経済評論家

1950年長野県生まれ。現在、(株)三井住友トラスト基礎研究所主席研究員。金融市場からマクロ経済、特にデジタル経済を専門とする。著書に『本当はすごい日本の産業力』(PHP出版)、『グローバル資本主義の未来』(NHK出版)、『日本力』(講談社)、『ITとカースト:インド・成長の秘密と苦悩』(日本経済新聞出版社)、『カウンターから日本が見える』(新潮新書)など。「10代で学ぶ・金融そもそも講座」などに書評、エッセイ、評論などを定期寄稿。

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