“若者力”に見える日本の希望-伊藤 洋一の視点(伊藤 洋一さんコラム-第13回)

伊藤 洋一(いとう よういち)コラム

世界も日本も不安に満ちている。トランプ大統領率いるアメリカの姿勢や政策は相変わらず周囲の国々を不安にさせ、日本が頼りにしていた欧州も、イギリスやフランスも迷走が顕著。ドイツもメルケル政権の終わりが見えてしまった。日経ヴェリタスの一面トップにも「崩れゆく欧州」という号があった。中国はアメリカとの貿易戦争で経済の悪化に拍車がかかる一方で、習近平主席率いる共産党政権は緊張硬直化の兆しを示す。

伊藤 洋一(いとう よういち)

しかしこの時期に私の気持ちをワクワクさせてくれるのは、日本の若者達の活躍だ。それを私は「(日本の)若者力」と名付けた。他の分野でも日本の若者の活躍は聞こえてこないわけではない。しかし結果が直ぐに出るスポーツの世界での日本の若者の活躍・躍進は凄まじい。まぶしいくらいだ。

中でも女子フィギュアの紀平梨花選手のグランプリファイナル(カナダ・バンクーバー開催)での初出場・優勝は、平昌冬季五輪女王のアリーナ・ザギトワ選手(ロシア)を大差で破ったもので、「素晴らしい」の一言に尽きる。ザギトワ選手が五輪チャンピオンになったのは今年2月。それから10ヶ月しかたっていない。共に16歳。この二人に加えて、彼等より若い選手達の競い合いは続くだろうが、紀平選手の演技は本当に素晴らしかった。

ロシアのスポルト・エクスプレス紙は「ザギトワが王位を驚異の日本人に譲る」との見出しで大きく報じ、「紀平の演技構成は五輪女王とほぼ同等、技術では先んじている」と指摘。さらに「ザギトワが紀平を打ち破るのは難しい」とまで評した。また浅田真央さんを指導したロシア人コーチのタチアナ・タラソワ氏は「軽快に素晴らしい滑りを見せて、ザギトワをはるかに上回った」とコメントした。

日本の若者の活躍は女子フィギュアだけではない。瀬戸大也選手は短水路200mバタフライを世界新で初優勝したし、バドミントン女子のダブルスでは世界ランキングの上位は日本勢が占める。池江璃花子選手も出場大会で実績を残している。まだまだ挙げれば切りがない。2020年の東京五輪を控えて日本の強化策が実りつつあるとの見方も出来る。しかし日本の若者の世界での活躍はここ数年で加速しており、日本が年々世界から多くの観光客を集めるようになったのと歩調を合わせるように増えている。

二つは関係ないように見える。しかし日本の若者が外国人を普通に見掛け、普段から接触する環境になったと言うことは重要だと思う。都市では学校(小中を含め)にも多くの外国人の子供達がいる。自然と「物怖じしない姿勢」が出来る。過去の日本選手は海外に行ったり外国人選手と競うとどこか「気が引けている」印象がした。

今はそれが全くない。紀平選手との共同記者会見で紀平選手の演技を聞かれた時にザギトワ選手が躊躇して喋れなかった姿を見て、「紀平さんが同じ状況だったら十分にうまく対処できただろう」と思い、「日本の若者は強くなった」と判断した。世界から観光客を集める国の若者が、世界に怖じ気づくことはない。彼等(観光客)は日本の魅力を見に、そして体験しに来ており、そのことは日本の若者も肌で感じている。日本の若者の落ち着き、そして自信は当然だ。

日本では毎年生まれる赤ちゃんの数が100万人を下回った。ほぼ団塊の世代の筆者と同じ年(1950年)に生まれた赤ん坊は234万人弱だった。その前3年は260万人前後。戦争直後数年の出生数が多いのは特殊要因だから、その時代と比べるのは妥当ではない。しかし年間100万人生まれ続けて、全員が80歳まで生きたとして、時間の経過の中で日本の人口は8,000万人になる。良い悪いではなく、1億2,000万人以上の今とは経済の形は大きく変わる。人口が減ることに危機感を持つのはある意味自然だ。(もっとも戦争が終わった1945年の日本の人口は7,300万人弱だった)

しかし日本の人口が減り始めたその時に、日本への観光客が年々増えて2020年には4,000万人に達する見込みなのは、日本にとっては良いことだし、日本の若者にとっては自信になる。海外からの観光客が目の子一週間は日本に滞在すると、日本の人口は週当たり77万人も増えていることになる。だから筆者は「日本の稼働消費者人口は増えている」と言っている。日本人人口は減っても今は年30万人だ。

最近の日本では「今頃の若者は……」という声をあまり聞かなくなった。良いことだ。日本の若者は実績を残している。それは素直に評価したい。小さな時から「自分の道」を邁進する若者が増えた。テニスの錦織選手もそうだ。将棋という国内対戦の世界で生きているから世界での比較は出来ないが、藤井聡太七段も素晴らしい。積み上げ方式の将棋の世界ではタイトルに手が届いていない。しかし羽生さんも、佐藤さんも破った。「直進ルート」でのタイトルも作って欲しいものだ。
日本の若者のパワーを確認するたびに、私は「大人もしっかりしないといけない」と思うし、良いことはお互いに学び合うことが必要だと思う。(了)

⇒伊藤 洋一さんコラム「伊藤 洋一の視点」第12回を読みたい方はコチラ

⇒伊藤 洋一さんコラム「伊藤 洋一の視点」をもっと読みたい方はコチラ

⇒各分野の第一線で活躍する著名人コラム「一聴一積」トップへ

PROFILE

伊藤 洋一(いとう よういち)

伊藤 洋一 (いとう よういち)

経済評論家

1950年長野県生まれ。現在、(株)三井住友トラスト基礎研究所主席研究員。金融市場からマクロ経済、特にデジタル経済を専門とする。著書に『本当はすごい日本の産業力』(PHP出版)、『グローバル資本主義の未来』(NHK出版)、『日本力』(講談社)、『ITとカースト:インド・成長の秘密と苦悩』(日本経済新聞出版社)、『カウンターから日本が見える』(新潮新書)など。「10代で学ぶ・金融そもそも講座」などに書評、エッセイ、評論などを定期寄稿。

※この記載内容は、当社とは直接関係のない独立した執筆者の見解です。
※掲載されている情報は、最新の商品・法律・税制等とは異なる場合がありますのでご注意ください。