相当に“気流”は乱れる……2019年の経済展望-伊藤 洋一の視点(伊藤 洋一さんコラム-第14回)

伊藤 洋一(いとう よういち)

「当機はこれから相当気流の悪いところを通過します。腰の位置でシートベルトをしっかりとお締め下さい」

伊藤 洋一(いとう よういち)

まれだが、機内で時に聞くことがあるアナウンスだ。2019年の日本、それに世界経済の予測で、これほど適切な告知はないだろう。既にこの“気流の悪さ”は昨年末にかなり顕著になっていた。しかし今年の気流の乱れは、今から予測できる。「相当酷いもの」になると考えられる。

1月中旬に予定されているイギリス議会のEU離脱案再票決、2月末に期限が設定されている米中貿易交渉、そして3月末にあるかも知れない「合意なき英EU離脱」や、米議会下院を民主党が握ることで可能性が出てきた「トランプ弾劾」、それに新たな地域紛争など。機内の誰もが居心地が悪くなり、ヒヤリとする場面もあるかもしれない。

おそらく2019年一年の日本と世界の経済を考える時、一番大きいのは「トランプ・リスク」だろう。昨年末にCNBCのコメンタリーにとっても適切だと思える文章を見付けた。「the president himself represents a fundamental problem for America’s economy and national security alike」というもの。つまり「トランプという大統領の存在そのものが、アメリカの経済と安全保障の両方にとって基本的問題となっている」と。

年齢のせいかもしれないが、「問題をよく分かっていないのではないか」と思えるのに加えて、とにかく頑固だ。自分の選挙公約を忠実に実行することが自分の再選につながると固く信じている気配がある。「壁建設」など議会から賛同を得られなくても通そうとする。政権自体も、それを回転木馬に例えると次々と信頼感のある乗り手(長官や補佐官などの高官)が去っている。「ポッチ大統領」の感さえある。

クリポッチは可愛いが、アメリカの大統領は世界最大の権力者だ。世界経済の乗客全員(われわれ日本人を含めて)が「(実質的な)機長の腕」に懸念を抱いているのが実情だ。むろん大統領からは独立して金融の舵取りをできる連邦準備制度理事会(FRB)のような組織もアメリカにはあるが、トランプ大統領はFRBが推し進める利上げを巡って激しくパウエルFRB議長やFRBそのものを非難している。経済の副機長も危機の際にただちに操縦桿を握れない心配もある。今の世界経済は「司令塔不在」だ。

次に心配なのは米中貿易交渉の行方だ。中国はアメリカからの車などの物品に対する関税を引き下げると表明し、農産物の輸入拡大なども約束している。しかしファーウェイ問題などもあり先行きは読めない。その間にも中国経済はアメリカが課した関税もあって大きく減速していると伝えられる。習近平の威光に陰りも見られる。米中の対立は、そもそも覇権争いの面があり、この対立関係は長期化する。

欧州も心配だ。イギリスとEUの関係が結局どうなるのか見えない。展開としては着々と「合意なき離脱」の方向に傾いている印象がするし、実際に英政府もその準備を始めたと伝えられる。ポンド相場には下げ圧力だし、欧州経済はフランスの政治的動揺、イタリアの反EU姿勢、ドイツ政治の流動化などもあって視界はかなり悪い。日本は政治的には安倍一強で安定しているが、世界経済の荒波から逃れることはできない。2019年は日本経済も先行き読めない航海に乗り出すということだ。

予想できるのは「荒れる市場」だ。「リスクの高まり」は一般的に円高を意味する。筆者は2019年に「予想外の円高」のリスクがあると考える。円相場は対ドル、対ユーロなどで一時的にせよ大幅高の可能性が高い。「100円前後もありうる」というのが筆者の見方だ。株式市場は2019年にヒヤリとする場面があるかもしれない。株価は日本を含めて既に長く上昇基調を続けた後ということもあって、「調整」は必至とみられていた。その部分を除くとしても、大きな「下げ局面」が何回か来そうだ。

もっとも読者の方々は飛行機の場合、揺れを予告するアナウンスの後には必ず「揺れましても当機の飛行、安全性には問題がありません。ご安心下さい」という後半部分があることをご存じだと思う。

経済は最終的には生活や楽しみのためにモノやサービスを買う消費者と、それを提供する企業が織りなしている。GDP統計を見ても、政府は横に居るだけだ。消費と生産が循環する限り、経済は回る。日本経済もそうだ。飛行機で言えば消費・生産が燃料だ。それがなくならない限り、飛行は続く。多少のアップダウンはあっても、経済は回るということだ。

日々のマーケットの上げ下げは重要だ。しかし様々な動きの中でも我々の身の回り、人、モノ、カネの動きがどうなっているかをその都度確かめて、どこにリスクとチャンスがあるのかを足下から見つめ直す。2019年はそんな一年になるのではないかという気がする。多分「予想外な事」が一杯起きる。2018年もそうだった。しかし基本は「life goes on」(人生や世界は続く)という考え方が重要だと思う。経済の先行きは日本も世界も著しく不透明だ。だからこそリスクと、そしてチャンスがあると思う。

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PROFILE

伊藤 洋一(いとう よういち)

伊藤 洋一 (いとう よういち)

経済評論家

1950年長野県生まれ。現在、(株)三井住友トラスト基礎研究所主席研究員。金融市場からマクロ経済、特にデジタル経済を専門とする。著書に『本当はすごい日本の産業力』(PHP出版)、『グローバル資本主義の未来』(NHK出版)、『日本力』(講談社)、『ITとカースト:インド・成長の秘密と苦悩』(日本経済新聞出版社)、『カウンターから日本が見える』(新潮新書)など。「10代で学ぶ・金融そもそも講座」などに書評、エッセイ、評論などを定期寄稿。

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