「8掛け」主義―「100年時代の生き方」・マイバージョン-伊藤 洋一の視点(伊藤 洋一さんコラム-第16回)

伊藤 洋一(いとう よういち)

今年早々に、いわゆる“古稀”になる。唐の詩人・杜甫の詩(曲江)にある「酒債は尋常行く処に有り・人生七十古来稀なり」が由来らしい。つまり「人間70年も生きるのは稀」というところから来ている。

伊藤 洋一(いとう よういち)_itouyouichi16

しかし今の時代、男女とも70年を生きるのは「稀(まれ)」ではない。日本では平均寿命が男女とも80歳代で、70歳の人間など時に「若造」と言われてしまう。最近会合などで「伊藤さんは、今年古稀でいらっしゃる……」的なスピーチをたまに聞かされる。静かにしているが、心の中では「ちっとも稀ではない」「古普」とでも呼んで欲しいと思っている。さらにそれを受けて挨拶しろと言われれば20年来の持説を開陳する。

それは「8掛け」説だ。年齢に0.8を掛ければ実体年齢になるという考え方だ。つまり私が今年達する70歳は、体力・行動年齢、そして思考パターンでは昔の56歳という考え方だ。生物学的にもそうらしい。「8掛け」はやや古い表現で、これを言うと分からない若い人も多い。しかし他に良い表現がないので、私はこれをずっと使っている。

加齢には敢えては抵抗しない。アンチエイジングもしていない。それと同じように、70歳なんだから「こうすべきだ」「そんなことはすべきでない」といった考え方にも同調しない。人それぞれ体力があり、意欲の差がありで、違いがあって当然。別に他の人に倣えする必要はない。還暦の時もそうだった。

ただ心に気持ち良いことをする。今でも毎日10キロ以上は歩く。義務感からではない。歩くことが楽しいから歩く。苦痛だと思ったことはない。歩く先々で街の変化を見て、新しくできるビルがあればその形と機能を楽しむ。今は渋谷だ。“変化”に気付くのが楽しいのだ。その楽しさをテレビ、ラジオ、そして様々な原稿で視聴者や読者に届けている。届けられることがまた楽しい。

「新しもの好き」で通っている。ラジオ番組に出て新製品の紹介をすると、「伊藤さんも買うんでしょ」と聞かれる。当然買う。買って使うとまたいろいろなことに気付く。それがまた他の人に伝える材料になる。今一番欲しいのは時間だ。若い時より時間が欲しい。「いろいろやり過ぎている」と時々思うが、「いろいろやる」ことがまた楽しい。

自分で言うのも僭越だが、顔色も良いし肌つやも良い。でもそれは多くの同世代もそうだと思う。コツは二つある。歩くことと、風呂になるべく回数多く入ること。歩くことはかなり多くの方がやっていると思う。「8,000歩歩いた」とかよく聞く。重要なのは、ある程度足に衝撃が伝わる歩き方をすること。早足で。

歩くことが重要だと思ったのは子供の頃だ。祖父は足を弱くしてあまり歩けなくなった時から、内臓も弱くなった。それが体の衰弱の原因となった。父親もそうだ。足は人の健康のバロメーターだ。ご病気や怪我で歩けない方もいらっしゃるかも知れないが、体の各所を動かし筋力を衰えさせないことが重要だ。体が丈夫なら好奇心も湧く。

風呂には実によく入る。もしかしたら自己流かも知れない。しかし風呂に入ると気分も体力もアップすると思う。今の暑い日本の夏などは、1日に2~3回はシャワーを浴び、さらになるべく風呂に入る。湯船に浸かるというのが重要だ。気持ちを落ち着かせる効果がある。それを裏付けるような調査結果も出た。私は日本人が世界的に長寿な原因の一つは、「湯船に浸かる習慣」だと思っている。血行が良くなり、肌につやも出る。温泉は最高だ。

薬はほとんど飲まない。サプリメントのようなものも基本的には嫌いだ。その代わり野菜と肉をたっぷり食べる。そして体を動かしてまた腹を空かす。その繰り返しがとっても良いと思う。急いでいない時は一階、二階程度の階段はなるべく歩く。そうした積み重ねが1日の運動量の確保に繋がる。自分の毎日の運動量などは「Apple Watch(アップル ウォッチ)」で計測している。時々見て、「あ、今日はちょっと足りない」と気が付くと、日付けが変わる前にそのゲージ達成を図る。

一番重要なのは、「やって楽しいことをやる」ことだと思う。そのためには気持ちを前向きに保つことが必要だし、体力も必要だ。そして時々突拍子もない発想をして、それを実行する。先日は雨後の筍のようにできている都心の新しいタイプのホテルに興味を持って、自宅のエアコンが数日間使えなくなったことを良いことに、それらのホテルを泊まり歩いてみた。「どんな人が、どんな時間を過ごしているのか」を見たくて。とっても面白かった。年間3,000万を超える訪日旅行者が日本で過ごす時間の一端が見れた。

いつも「あなたは思わぬところに出没する」と言われる。2019年の秋には「香港40時間旅」というのをやった。「自由な香港の見納め」だと思ったらじっとしていられなくなった。それを報告すればラジオ、新聞・ネット原稿のネタになる。その点は恵まれている。しかしネタになるから行くのではなく、やはり行きたいから行くというのが当たっている。「9.11」も、「3.11」も自分の足で現場を見た。

むろん少しの資金は貯めている。しかし元気でなければ意味がない。「8掛けの気持ち」はそういう意味で重要だし、「100年時代」の一つの生き方だと思う。

⇒伊藤 洋一さんコラム「伊藤 洋一の視点」第15回を読みたい方はコチラ

⇒伊藤 洋一さんコラム「伊藤 洋一の視点」をもっと読みたい方はコチラ

⇒各分野の第一線で活躍する著名人コラム「一聴一積」トップへ

PROFILE

伊藤 洋一(いとう よういち)

伊藤 洋一(いとう よういち)

経済評論家

1950年長野県生まれ。現在、(株)三井住友トラスト基礎研究所主席研究員。金融市場からマクロ経済、特にデジタル経済を専門とする。著書に『本当はすごい日本の産業力』(PHP出版)、『グローバル資本主義の未来』(NHK出版)、『日本力』(講談社)、『ITとカースト:インド・成長の秘密と苦悩』(日本経済新聞出版社)、『カウンターから日本が見える』(新潮新書)など。「10代で学ぶ・金融そもそも講座」などに書評、エッセイ、評論などを定期寄稿。

※この記載内容は、当社とは直接関係のない独立した執筆者の見解です。
※掲載されている情報は、最新の商品・法律・税制等とは異なる場合がありますのでご注意ください。