コストだと思わせない―「100年時代の生き方」-伊藤 洋一の視点(伊藤 洋一さんコラム-第17回)

伊藤 洋一(いとう よういち)

前回は少々素直すぎるかとも思ったが「マイ・バージョン」として、古希を迎える私の年齢に対する考え方や、現在の時間の過ごし方について触れた。少しでも参考になればいいのだが、今回は“(人口の)高齢化”に関していつも思っていることを書きたい。

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「少子高齢化」や「お年寄りと言われる人々の増加」は、マスコミなどでは日本の専売特許のように言われているが、それは違う。実は世界を見ると、先進国で合計特殊出生率が2(人口の維持には2.1が必要といわれている)アラウンドなのはフランスくらいで、その他の先進国は日本のように1.5に届かないか、そうでなくても2.0をかなり下回っている。

例えばお隣の韓国の場合、直近で出生率は1.0を割って実に0.98の低さだ。なので韓国の人口は2020年代の半ば以前にピークを打ち、その後は日本よりも少子高齢化が早いスピードで進む。それが確実な情勢だ。他のドイツなどの先進国も日本と同じような問題を抱えている。医療の発達は先進国、途上国を問わずに進んでいるから、世界の各国で日本と同じように多くの方が「人生100年時代」の幕開けを体験するようになる筈だ。

むろん、国によって進展に時間差はある。しかし一部の国など例外を除けば、世界の大部分の国が「少子高齢化」という同じ課題に直面しているのだ。その中で毎年、歳を重ねる高齢の人達の数は増える。繰り返すがそれは世界的現象であり、日本は世界の先進国の先陣を切って過去に例のない、時に難しい時代の入り口に居るということだ。

「難しい」と書くと、「人生100年」は素晴らしいことではないか、と反論されそうだ。その通りで、医療が発達する前の19世紀までは世界中のどの国でも新生児の死亡率は非常に高かった。よって70歳などに達する人の数は希で、だから「古希」といった言葉も生まれた。しかし医療は日々進化し、その恩恵を受ける人も数も先進国、途上国を問わずに増えている。

最近は特集番組などが、「世界では歳を取らないための研究が進んでいる」「かなり見通しが立ってきた」とも報じている。生まれてきた人間が、人生の経験を積みながら、それを、続く世代の人々に伝えていけたなら、それはそれで価値のあることだし、望ましい面もある。

しかし人が生きて行くにはコストがかかる。シェルター(住居)、衣食、趣味、家族や友人への贈り物など挙げれば切りがない。それは幼児、若者、そして中堅、高齢者も同じ。しかし一番問題なのは、医療に関わる費用が全体的に高齢者により多くかかる、ということだ。それは現状間違いない現実だ。

この原稿を書いている1月14日の新聞の朝刊には「高齢医療、膨らむ単価」と、トップに掲載されていた。世界的な傾向である高齢化は、医療費の増大を招き、日本のように国家予算のかなりの部分を占めるようになってきた。しかも高齢患者一人当たりの医療費単価が増大すれば、家計にも国家財政にも大きな負担になる。これが「コスト」だ。

最近よく思う。それは高齢者の側も、若い人達に「彼等は社会のコスト」だと思わせないだけの努力が必要なのではないか、と。高齢者達の「病気自慢」は嫌われる会話の代表格だ。私はその種の会話が飛び交うであろうと予想される会合には絶対行かない。「自分は毎日何種類の薬を飲んでいる」的な会話は、聞いても何の役にも立たない。なぜなら、私は薬を日常的には何一つ飲んでいない。サプリもそうだ。

会話程度なら時に流してもらえるが、実際に生じるコストは家計的にも国家財政的にも無視できない。膨らみ続けているのだから。そこで思うのは、高齢者のサイドにも「コストにならない覚悟」が必要なのではないか、ということ。ここが重要だ。

医療費がかかる原因はむろん医療を提供する側にもある。不必要に薬を出しすぎるとも言われる。売り上げが立つからするのだろうが、これは患者の側に立っても好ましくない。複数の薬の飲み合わせが良くなくて、体調を崩した人の話はよく聞く。薬の数が多くなればなるほど、相互に悪影響を及ぼす危険性が高まる。それがまた医療費を膨らませる。

恐らく患者側として一番必要なのは、「病気にならない努力」だろう。これは双方にとって良い。医療費は減るし、元気な高齢者が増える。元気な高齢者は、また様々な経験を積んだ人であって、社会に様々な形で貢献できる。それは人それぞれだが、高齢者以外の人達に「居てくれて良かった」と思ってもらえることをすれば、社会もよく回ると思う。もちろん、その努力は既に始まっている。

さらに重要なのは、ITなどを含めて高齢者も「時代の変化についていく努力」が必要だということだ。若い人達がコミュニケーションのツールにしているLINEなどをかなりの程度使いこなせれば、円滑な意思疎通は問題なくできる。「もういい」と思わずに、ちょっと好奇心を出してカレントな技術を使いこなす術を身につける必要があると思う。

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PROFILE

伊藤 洋一(いとう よういち)

伊藤 洋一(いとう よういち)

経済評論家

1950年長野県生まれ。現在、(株)三井住友トラスト基礎研究所主席研究員。金融市場からマクロ経済、特にデジタル経済を専門とする。著書に『本当はすごい日本の産業力』(PHP出版)、『グローバル資本主義の未来』(NHK出版)、『日本力』(講談社)、『ITとカースト:インド・成長の秘密と苦悩』(日本経済新聞出版社)、『カウンターから日本が見える』(新潮新書)など。「10代で学ぶ・金融そもそも講座」などに書評、エッセイ、評論などを定期寄稿。

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