マーケットで高まるSNSの存在-「変わる金融市場の景色」 - 伊藤 洋一の視点(伊藤 洋一さんコラム - 第20回)

伊藤 洋一の視点

「株式市場でのパワーバランスの変化」は、直ちに政治が注目するところとなった。なにせ論点満載。コロナ禍で多くの人が苦しむ中で、株価上昇の恩恵を被る富裕層とそれへの一般市民的な反感がある。加えて「若者の証券会社」と見られながらも、急激に増える取引への預託金調達のため、取引制限(若者投資家の買いを抑制する効果)措置を取ったロビンフッドの行動への批判も強かった。さらに、インターネット・フォーラムで示し合わせて株式取引を行った新投資家軍団の行為は「株価操縦・共謀」ではないのか、という疑問もある。

私は一連の流れの中で、結果として今後のマーケットでは、

  • (1)株式など各種マーケットでのインターネット情報の役割は著しく増大し、相場を左右する存在となる。
  • (2)よって、関係者は今よりも高い関心を持ってインターネットでどんな情報が流れるかを監視し、その評価を行う必要性が出てくる。
  • (3)その中で、ヘッジファンドなど過去のマーケットで存在感があった勢力が、影響力を落とす可能性が高い。

と見ている。

政治の世界で真っ先にこの問題を取り上げたのは、米下院金融サービス委員会。2月中旬に第一回開催だったが、アメリカのいくつかある経済テレビ局は、昼に始まった公聴会を一斉に生中継した。5時間に及ぶ長丁場。それだけ国民の関心が大きかったのだ。公聴会は今後も証券取引委員会(SEC)の担当者などを呼んで続く予定。

公聴会で集中砲火を浴びたのは、スマホ証券であるロビンフッドだ。当然だ。取引手数料ゼロで若い新規投資家の支持を得て伸びたのに、ショートを振ったGameStop株で大損を出したヘッジファンドを側面支援するかのように、ロビンフッドは「取引停止措置」を取った。かつ、この措置は取引関係にあるヘッジファンドの要請から取った措置だったのではないか、との疑いがもたれた。

ロビンフッドのブラッド・テネフ最高経営責任者(CEO)は公聴会で、「(GameStop株など)特定の株の取引を一時的に制限したのは、規制当局が定める預託金の条件に従うため。前例のない取引量に対応するために必要な措置だった」と弁明に追われた。つまり、取引の急増で当局へ預託金30億ドルの支払いの必要性が生じたが、手持ちにはその資金がなく、やむなく取引を制限する道を選んだという説明だ。

同社はその後慌てて34億ドルの追加資本を調達する措置を講じ取引を再開したが、その約一日の間、ロビンフッドの顧客はGameStop株の取引ができなかった。つまり、同社は今後「自社の都合で取引を止める」という選択ができなくなる可能性がある。インターネット勢が常にマーケット勢力であり続けられる状況が生まれた。

公聴会は今後も続くが、その金融市場へのインパクトは大きい。「長らく市場を支配したヘッジファンド衰退への一歩」となる可能性がある。まず政治環境。民主党政権下では、当局の視線も「ヘッジファンド敵視」の方向だろう。政治家もメディアも、一般投資家を味方にしたい。世の中は悪者を探す。ヘッジファンドは“悪者”の資格十分だ。

勢力を増すのは「インターネット勢」だと言える。SNSの世界の変化は素早い。検証が難しいサービスも既に登場している。WallStreetBetsはいわば「書き込み方式」なので、例えそれがハンドル名であろうと誰が書いたのかは分かる。しかし今後これができないかも知れない。それが音声SNSだ。音声SNSにはSpoon(スプーン)とかstand.fm(スタンドエフエム)とかあるが、今日本でもアメリカでも急速に広まっていて私も注目しているのがClubhouse(クラブハウス)だ。Androidに対応していないが、iPhoneのApp Storeから簡単にダウンロードできる。

伊藤 洋一(いとう よういち)_itouyouichi20

音声SNSの一番の特徴は「(交流に)音声を使っている」ことで、加えてClubhouseには「録音・収録一切禁止」というルールがある。つまり記録が一切残らない。残せないのだ。現利用者が二人の招待枠を持つが、招待を受けて会員になると誰でもルームを開設できる。ルームを開設すればそこに多くの聞き手が入れる。Clubhouseは、会話ツールとしてはせいぜい4~5人の利用が有効だ。それ以上になると誰が喋っているのか分からなくなる。使ってみた私の印象だ。

ラジオ番組をいくつか持っている私が注目しているのは、放送型のClubhouse利用。既に何人もの比較的名前の知れた人(評論家や芸人)が対論含みで開始している。かなり多くの人が聴取者として入れる。「コマーシャルのないラジオ番組」的な使い方ができる。

例えば株のメンターのような人がルームを開き、そこで銘柄を推奨し、そして聴いていた多くの人が一斉にその示唆に従って瞬時に動いたらどうなるか。参加者の人数にもよるが、相場は動くだろう。しかしそのルームが非公開だったら、外部の人には何も分からないし、当局が後で検証するのも容易ではない。なにせ「録音は残さない」が原則なので。

実際には「共謀」や「株価操作」の認定は、「表現の自由」が絡みかなり難しい。公聴会でも明確な線引きは難しいだろう。結果的に「ヘッジファンド規制」だけが進む可能性もある。私がマーケットでの勢力図の変化を予想する理由だ。

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PROFILE

伊藤 洋一(いとう よういち)

伊藤 洋一(いとう よういち)

経済評論家

1950年長野県生まれ。現在、(株)三井住友トラスト基礎研究所主席研究員。金融市場からマクロ経済、特にデジタル経済を専門とする。著書に『本当はすごい日本の産業力』(PHP出版)、『グローバル資本主義の未来』(NHK出版)、『日本力』(講談社)、『ITとカースト:インド・成長の秘密と苦悩』(日本経済新聞出版社)、『カウンターから日本が見える』(新潮新書)など。「10代で学ぶ・金融そもそも講座」などに書評、エッセイ、評論などを定期寄稿。

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