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伊藤 洋一の視点

伊藤 洋一さんコラム - 第25回

日本経済再生の鍵 (1)科学技術力のリゲインを

なかなか活気の出ない日本経済だが、その中でもこのところ「気の滅入る敗戦」が続いているのは“科学技術”の分野だ。新しいテクノロジーをベースに人々が「買いたい」と思える新製品が生まれ、それへの需要増から経済は時に大きく発展する。「技術こそ経済活動の基盤」とも言える面がある。だからとても心配なのだ。

特に筆者が最近滅入ったのは、スペースジェットの開発断念だ。スタート当初の名称はMRJ(Mitsubishi Regional Jet)と言った。読者の方々もご存じだろう。プロペラ旅客機のYS11から一段上のジェット機として、世界の空を100人前後の乗客を乗せて飛び回るはずだった。戦後に航空機製造を禁じられた日本の翼が、世界の空を縦横無尽に飛び回れる日を筆者は期待した。

発表されて直ぐに「応援団」を自認し、当時自分が番組を持っていたBS7チャンネル(テレビ東京系列)でも取り上げた。「自動車で成功できた日本がジェットでの航空機製造でも成功してしかるべきだし、戦後の桎梏(しっこく)からの脱出」を期待したのだ。ゼロからの出発だったから苦難の道だったことは分かる。国際基準の認証取得に時間がかかった事情も知っている。それを乗り越えて欲しかった。しかしその願いは叶わなかった。

技術面での日本の敗戦と言えば、新型コロナ対応の「ワクチン開発競争」も挙げられる。海外の大手と、日本の製薬会社の資本力の差が大きいことは分かっていた。しかし甘い期待だったのかも知れないが、筆者を含めて日本人の多くが「やはり国産のワクチンが欲しい」と思ったのではないだろうか。しかし時宜にかなった形では、「日本製のワクチン」が世の中に出ることはなかった。

最近ではH3(国産大型ロケット)の初号機打ち上げ失敗だろうか。H2Aは世界に誇る打ち上げ成功率を誇っただけに期待したが、H3は開発が遅れに遅れた。そして最終的に打ち上げに失敗した。期待が大きかっただけに大きな失望を生んだ。日本は中型ロケットのイプシロン6号機の打ち上げにも最近失敗しており、中型・大型の両方で世界に誇れるロケットがない状態になっている。

私の身の周りを見ても、日本製のスター製品が大きく減っている。我が家にあったエレクトロニクス製品と言えば、かつてはソニーが圧倒的だった。あとはシャープやパナソニックなど。しかし今やスマホやPCは全てAppleで、テレビとビデオがやっとソニー。あと目立つのはダイキンの空気清浄機程度。ケーブルを含めて充電関連機器はアンカーになった。

日本の技術力の低下は、技術論文発表本数、特許申請数の各国別統計でも明らかだ。「今年は日本から誰が受賞か?」といった報道が当たり前のノーベル賞だが、今後は日本人の受賞者は減少するとの見方がある。誠に寂しいのだ。新しいテクノロジーを生み出す力が、その国の経済・企業活動の下支え、発展パワーになるという現実を考えると、筆者は危機感さえ覚える。

目を転じると、日本が最近「力を付けているな」と筆者が思えるセクターはスポーツだ。先の東京五輪の新競技でスケートボードの堀米雄斗やサーフィンの五十嵐カノアが活躍したのは記憶に新しい。金メダルも沢山獲った。サッカーのワールドカップで日本はあと一歩のところでベスト8だったし、ラグビーのワールドカップでも大番狂わせを演じた。日本のスポーツは上り坂なのだ。

日本国内にある上げと下げの潮流。何が違うのか。多分それは育成制度にある。日本の戦後のスポーツは弱かった。しかしサッカーが良い例だが、国内リーグをスタートさせ、各チームや協会が小学生から選手育成を図ってきた。だから日本のサッカーは世界でも存在感溢れる地位を築けたし、三苫選手を含めて有力選手を世界に輩出している。これはフィギュアスケートなど他の競技でも言える。

対して日本は科学技術の振興で目新しいことを何もしていないに等しい。配分予算も少ない。「(科学・技術に)強くて当たり前」「日本人は優秀」という考え方が強すぎたのだと思う。どうしたら良いのか。多分学校制度を含めて、科学技術の人材を育てる育成制度が必要だ。

あまり知られていないが、日本は江戸時代以降ずっと私塾を中心に算盤や和算などで地域の有望株を育てるシステムを作ってきたし、明治以降の教育制度も科学・技術の振興を座標軸に置いてきた。日本が戦後ずっとノーベル賞受賞者が中国、韓国など他のアジアの国に比して多い状態を続けられたのは、過去の努力の成果だ。

だから筆者は科学技術にポイントを置いた若手の育成制度を将来の日本のために横断的に作るべきだと思う。横断的というのは、学校制度を含めて「子供達を科学や技術に熱中させる場」を作り出すということだ。画一的な今の教育制度を続けても、多分日本の未来は開けない。基礎学力としては法律も歴史も必要だが、我々の生活に活力を与えるのは新しい技術、新しい製品だ。そこから楽しみが生まれる。

スポーツにできて、科学技術にできないことはない。もっと子供達、若者達を巻き込む「技術育成の場、楽しむ場」をネット上、地域を含めて作るべきではないか。

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PROFILE

伊藤 洋一

伊藤 洋一(イトウ ヨウイチ)

経済評論家

1950年長野県生まれ。金融市場からマクロ経済、特にデジタル経済を専門とする。著書に『ほんとうはすごい!日本の産業力』(PHP研究所)、『日本力』(講談社)、『ITとカースト インド・成長の秘密と苦悩』(日本経済新聞出版社)、『カウンターから日本が見える―板前文化論の冒険―』(新潮社)など。「金融そもそも講座」などに書評、エッセイ、評論などを定期寄稿。

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