老後に必要な資金
老後の生活費がいくら必要なのか知っておくことで、老後に退職金と公的年金だけで暮らしていけるのかどうかを判断しやすくなります。また、不足すると考えられる場合には、今からどのくらいのお金を用意すべきかイメージしやすくなります。
そこで、今回は老後に必要な資金についてまとめてみました。
老後の期間はどれぐらい?
(1)老後が始まる年齢はいつ?
老後が始まる年齢については、人によって捉え方がさまざまです。
(公財)生命保険文化センターの「平成28年度生活保障に関する調査」によると、公的年金や退職金以外に老後のために準備した資金を生活費として使い始める(始めた)年齢について、約65歳からとする回答が39.5%で最も多くなっています。
(2)老後はいつまで続く?
厚生労働省の「平成28年簡易生命表」によると、65歳の「平均余命」を加味した年齢は、男性約84歳、女性約89歳 となります。
老後に必要な資金を考えるにあたり、最低でも男性は19年間、女性は24年間を老後として過ごすことを考える必要がありそうです。
老後の平均生活費は?
老後の生活費の目安として、総務省「家計調査年報(家計収支編)平成28年度(2016年)」の統計からみていきましょう。
(1)老後に必要な資金 夫婦の場合
65歳以上の夫婦高齢者世帯で無職世帯の1カ月の支出263,315円に対し、収入212,241円となっており、不足が生じています。収入の中心は社会保障給付(公的年金)の194,649円となっています。
表1 65歳以上の夫婦無職世帯の生活費収支
(単位:円)
支出合計 | 263,315 | 収入合計 | 212,241 |
---|---|---|---|
食料 | 64,083 | 社会保障給付(公的年金) | 194,649 |
住居 | 14,991 | その他の収入 | 17,592 |
光熱・水道 | 18,849 | 不足額 支出263,315円-収入212,241円 =51,074円 |
|
家具・家事用品 | 8,974 | ||
被服及び履物 | 6,379 | ||
保健医療 | 15,113 | ||
交通・通信 | 24,007 | ||
教育・教養娯楽 | 25,593 | ||
その他の消費支出(交際費など) | 56,190 | ||
非消費支出(税金・社会保険料) | 29,135 |
資料:総務省「家計調査年報(家計収支編)平成28年度(2016年)」をもとに執筆者作成
65歳以降ご夫婦で暮らす期間を24年間とした場合、月額不足額51,074円を備えるためには、約1,471万円(51,074円/月×12カ月×24年)が生活費として必要になります。
(2)老後に必要な資金 単身者の場合
65歳以上の高齢者無職世帯(単身者の世帯)の1カ月の支出155,545円に対し、収入は122,607円となっています。やはり収入に対して支出が上回っていますね。
表2 65歳以上の単身無職世帯の生活費収支
(単位:円)
支出合計 | 155,545 | 収入合計 | 122,607 |
---|---|---|---|
食料 | 36,003 | 社会保障給付(公的年金) | 113,721 |
住居 | 12,299 | その他の収入 | 8,886 |
光熱・水道 | 12,622 | 不足額 支出155,545円-収入122,607円 =32,938円 |
|
家具・家事用品 | 5,288 | ||
被服及び履物 | 4,219 | ||
保健医療 | 8,041 | ||
交通・通信 | 12,166 | ||
教育・教養娯楽 | 17,395 | ||
その他の消費支出(交際費など) | 35,427 | ||
非消費支出(税金・社会保険料) | 12,085 |
資料:総務省「家計調査年報(家計収支編)平成28年度(2016年)」をもとに執筆者作成
月額不足額約32,938円を備えるためには、男性は約755万円(32,938円/月×12カ月×19年)、女性は約949万円(32,938円/月×12カ月×24年)が生活費として必要になります。
上記のデータのなかで、住居費の平均がご夫婦で 14,991円、単身者で12,299円と抑えられているのは持ち家にお住まいの方が多いためです。賃貸住宅にお住まいの方は、賃料の額に置き換えてみると、一般的に持ち家にお住まいの方より多い資金が必要になる可能性が高いと考えられますので、注意が必要でしょう。
ゆとりある老後に必要な資金
(1)必要な上乗せ費用の金額は
(公財)生命保険文化センターの「平成28年度生活保障に関する調査」によると、老後のゆとりのためには、平均約12.8万円の上乗せ費用が必要だと回答しています。
平均余命の長い女性の場合、65歳以降24年間、経済的にゆとりのある老後生活を送るために必要な費用は、約3,686万円(約12.8万円/月×12カ月×24年)ということになりますね。
(2)老後も楽しみたい
(公財)生命保険文化センターの「平成28年度生活保障に関する調査」によると、老後のゆとりのための上乗せ額を、具体的にはどのようなことに使っていきたいと考えているかをみると、旅行やレジャー(60.6%)、身内とのつきあい(50.1%)、趣味や教養(49.7%)、日常生活費の充実(49.0%)の順となっています。
また、老後の生活を楽しむためには健康であることも大切です。健康寿命を延ばす活動も積極的に取り入れて楽しい老後にしたいですね。
老後資金の増やし方
老後資金の不足が予想される場合に備える方法として、iDeCoなどの税制優遇がある制度を利用しての資産運用や、生命保険の見直し、貯蓄などが考えられます。
また、定年後も再雇用制度を利用して働き続ける、あるいは、これまでの経験を生かして新しい職場で働くことも良いでしょう。
生命保険は、保障が重複しているなど不要な保障の見直しをすることで保険料を抑え、その分を貯蓄にまわすことができます。逆に、ずっとあると思っていた必要な保障が切れていたということもあるので、保険期間に注意をして確認しましょう。
ゆとりある老後の費用のための自助努力として、個人年金保険などの貯蓄性がある保険で備えることを検討するのも良いでしょう。
個人年金保険は、契約時に定めた年数経過後、一定期間(5年、10年など)または一生涯にわたり毎年、一定額の年金が受け取れる貯蓄型の保険です。保険期間中に死亡した場合、既に払い込まれた保険料相当額を支払われるタイプ、解約払戻金と同額の死亡払戻金しか支払われないタイプの商品があります。
統計データをもとに、老後にどんな費用がかかるのかをみてきました。
自分の場合はどうかな?と置き換えて考えていくと、よりリアルな老後に必要な資金がイメージできるでしょう。
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コラム執筆者プロフィール
小山 智子 (コヤマ トモコ) - 宅地建物取引士/AFP/2級ファイナンシャル・プランニング技能士
- 専業主婦時代に、夫の借金を1,000万円肩代わりする。離婚後「お金を守る知識」の重要性を痛感。現在は、シングルマザーと独身女性の相談業務とマネー講座を中心に活動中。著書「誰にも頼れない女のお金の守り方」(秀和システム)。
鎌倉ウーマンライフプランニングオフィス 代表
ファイナンシャルプランナー 小山 智子
※この記載内容は、当社とは直接関係のない独立したファイナンシャルプランナーの見解です。
※掲載されている情報は、最新の商品・法律・税制等とは異なる場合がありますのでご注意ください。
掲載日:2020年2月12日
iDeCo(個人型確定拠出年金)を利用すると老後に必要な資金はいくら増やせる?
iDeCo(個人型確定拠出年金)で老後の資金は実際にいくらくらい増やせるのでしょうか。
まずは、iDeCoへの加入資格があるかどうかを確認しましょう。
表3 iDeCoの加入資格
加入区分 | 加入対象となる方 | 加入できない方 |
---|---|---|
国民年金の第1号被保険者 | 日本国内に居住している20歳以上60歳未満の自営業者、学生の方など | 農業者年金の被保険者、国民年金の保険料納付を免除(一部免除を含む)されている方(ただし、 障害基礎年金を受給されている方等は加入できます) |
国民年金の第2号被保険者 | 60歳未満の厚生年金の被保険者(会社員、公務員)の方 | 企業型確定拠出年金に加入している会社員の方(ただし、企業型確定拠出年金規約で個人型同時加入を認めている場合は加入できます) |
国民年金の第3号被保険者 | 20歳以上60歳未満の厚生年金に加入している方の被扶養配偶者の方 | ― |
資料:iDeCo公式サイトをもとに作成
加入資格がある場合、iDeCoの拠出限度額は、現在の公的年金の加入状況によって違いがあります。
区分別の拠出限度額は下図のようになっています。
図 iDeCoの区分別拠出限度額
※DC:確定拠出年金 DB:確定給付企業年金、厚生年金基金
資料:iDeCo公式サイトをもとに作成
上図から、ご自身の公的年金の加入状況と、加入~60歳までの期間がわかれば、60歳までにどのくらい貯められるか、おおよその金額がわかります。
例えば、企業年金のない会社員の方(第2号被保険者)が、30歳で加入して60歳になるまでの30年間、毎年27.6万円を拠出した場合、おおよそ828万円積み立てることができます。
実際には、この金額から月々の手数料が差し引かれ、また、運用で得た利益が加減算されます。
また、iDeCoは毎年1月~12月に納付した掛金が全額所得控除となります。
上記の30歳加入の例で、課税所得が300万円の場合、表4の通り税率が所得税10%、住民税10%ですので、年間55,200円負担を軽減することができます。
表4 所得税率と住民税率
課税所得 | 所得税率 | 住民税率 |
---|---|---|
195万円以下 | 5% | 10% |
330万円以下 | 10% | |
695万円以下 | 20% | |
900万円以下 | 23% | |
1,800万円以下 | 33% | |
4,000万円以下 | 40% | |
4,000万円超 | 45% |
資料:財務省のホームページをもとに作成
なお、個人年金保険には、iDeCoのように積立額に限度はありません。
また、保険料控除は新契約の場合、年間の払込保険料が8万円超であれば、控除額は一律4万円です。
iDeCoは一度加入すると、一定の条件の場合を除いて、60歳まで脱退できません。
しかし、拠出金額は途中でも変更することができます。
将来の資産形成のために、iDeCoと個人年金保険へ加入するのも一案です。