
みなさん、こんにちは。門倉貴史です。
このコラムでは、経済学やお金の観点から見た幸福とは何か、をテーマにお話しさせていただいています。第一回では、最近の行動経済学の研究などをもとに、「モノ」より「経験」にお金を使ったほうが人の幸福度は高く、豊かな人生につながる、といった話をさせていただきました。
第二回では、今、何かと話題の働き方改革について触れたいと思います。どのように働くかは、その人の幸福度に大きな影響を及ぼすからです。
「働き方改革」はこれからの経済成長に欠かせない
今、日本では働き方改革が叫ばれています。ICT(情報通信技術)の積極活用などで仕事の効率を改善し、残業を減らそうといった趣旨ですね。マクロの視点で見ると、人口減少によって労働力人口が減っていくなか、一人あたりの労働生産性をあげていくことは正しい戦略です。労働時間を柔軟にコントロールすることで生産性があがることも、さまざまな研究によって明らかになっています。例えば大手オフィススペースプロバイダーの調査では、フレキシブル・ワークの導入により、育児や介護との両立を行えることや、通勤時間の短縮による仕事の効率化、職場定着意識の向上など、プラスの影響をもたらす結果が報告されています。
日本は工業国としてのキャッチアップの時代を終え、今までにない産業や製品、サービス、コンテンツを創造しなくてはいけないフェーズに入っています。そのような時代には、仕事だけの会社人間より、家庭や地域を大切にし、多様な経験をしている人のほうが、新しい発想を生みやすい、といった考えもあります。
人々が多様な「経験」をするには時間的なゆとりや余暇が必要です。そこで働き方改革によって、社会全体の余暇の時間を増やす必要があるのです。余暇の時間が増えれば、人々は楽しくて有意義な「経験」にさらにお金を使うようになります。そのようなニーズに応える、新たな産業やサービスも生まれることでしょう。そんな良い循環が生まれれば、日本の経済もまだまだ成長していくことができるはずです。働き方改革は、労働者に楽をしてもらうというより、低迷している日本経済を成長させるためにこそ必要なのです。
そもそも日本人のように長時間労働や残業を美徳とする考え方は、世界的に見ても特殊です。もちろん勤勉であることは、悪いことではありません。でも日本人は、もう少し世界の国々から見習うべき点もあると思います。例えば有給休暇の取得を主体的に行ったり、余暇を楽しんで過ごすことに罪悪感をもたず、むしろそれが社会全体の豊かさや幸福につながっていくのだという意識が必要です。何よりも周りの空気を読みすぎるという意識の改革は必要なのかもしれません。
労働時間を減らすことが、必ずしも幸せにつながるとは限らない
ただ、労働時間を減らすことがマクロ的には正しくても、ミクロで見ると状況は変わります。一人ひとりの働く人を見た場合、労働時間を減らすことが、必ずしもその人の幸せに結びつくとは限らないのです。
例えば、「仕事が生きがいで、楽しくてしかたがない」「仕事をせずに休むほうが苦痛だ」という人がたまにいます。そのような人から仕事を奪い、無理やり休ませても、ストレスがたまるばかりでしょう。アート系やクリエイティブ系の仕事、頭脳労働などは、仕事を労働時間で評価・管理するのが難しい面もあります。すべての職種を働き方改革の名のもとで、一律に規制するのは無理があります。
仕事に対するスタンスは、大きく二つのタイプの人がいます。仕事が生きがいで、働くこと自体に幸福感をもつ人。仕事はあくまでお金を得るための手段で、働いて得たお金を使うことによって、幸福感を得る人です。
僕自身は前者なんですよ。シンクタンクで会社員として働いていた20代の頃は、平日は夜遅くまで、土日も働いていました。傍目にはモーレツ社員に見えたと思いますが、仕事がとにかく楽しくて、不満やストレスはありませんでした。当時は働き方改革なんて言葉はなかったし、研究に夢中になると寝食を忘れて取り組んでしまうタイプだったのです。
ただ今の若い人たちは、僕らの世代より仕事にプライオリティーを置く人は減っているようです。プライベートを犠牲にしてでも出世を目指す、といった人は少なくなっているのではないでしょうか。仕事は生活費を得るための手段と割り切り、余暇を楽しむことを重視する。そのような人にとっては、働き方改革によって労働時間が減ることは、歓迎すべきことでしょう。
働き方が多様化するなか、自分が何を大切にするかが問われている
今はフリーランスや非正規雇用が増え、働き方が多様化しています。副業を認める大企業も増えています。やり方次第では、安定した収入とやりがいを両立させることも可能です。例えば、安定した正社員として生活費を稼ぎながら、やりがいを感じつつ、好きなことを副業で行う、というのも一つの手です。副業が上手くいけば、本業に切り替えるのもいいでしょう。
現在の会社での働き方に不満がある人は、転職を検討するのも良いでしょう。とはいえさまざまなデータを見ると、転職をすると年収がダウンすることが多いのも現実です。安易な転職はせず、自己投資に時間とお金をかけたうえで、周到に準備をしてから行うことをおすすめします。
これからの時代は自分が働くだけでなく、投資によって“お金に働いてもらう”発想も必要です。ただし、何も勉強せず、いきなり投資を始めるとたいてい失敗します。リスクを含めて、しっかり投資について学ぶ必要があります。でも投資や経済の話をすると、難しいと敬遠される方も少なくありません。
そこで僕は、経済や投資をテーマにした講演では、話が硬くなりすぎないことを心がけています。投資の必要性やさまざまなジャンルの投資方法を説明することはもちろん、行動経済学の研究をもとに、どのようなタイプが投資に成功しやすいかというような話もします。そのなかで、適度にテレビ撮影でのエピソードを盛り込むことで、聞いている方を飽きさせないようにもしていますね。
今後は子供たちが好奇心をもって、ワクワクしながら聞いてくれるような投資教育にも携わりたいですね。
いずれにしろ、働き方が多様化するなか、自分は仕事において何を大切にするのか、自分が最も幸せだと感じる瞬間はどんなときなのかを、しっかり見つめ直すことが大切だと思います。
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PROFILE
門倉 貴史(かどくら たかし)
エコノミスト、BRICs経済研究所代表
1971年神奈川県生まれ。1995年慶應義塾大学経済学部卒業、同年銀行系シンクタンク入社。1999年日本経済研究センター出向、2000年シンガポールの東南アジア研究所出向。2002年から2005年まで生保系シンクタンク経済調査部主任エコノミストを経て、現在はBRICs経済研究所代表。同研究所の活動とあわせて、フジテレビ「ホンマでっか!?TV」、毎日放送「サタデープラス」、読売テレビ「上沼・高田のクギズケ!」など各種メディアにも出演中。また、雑誌・WEBでの連載や各種の講演も多数行う。『不倫経済学』(KKベストセラーズ)、『門倉貴史のオトナの経済学』(PHP研究所)、『日本の「地下経済」最新白書』(SBクリエイティブ)など著書多数。
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