「リモート」がニューノーマルになる - コロナ後の「ニューノーマル」は何か?(野口 悠紀雄さんコラム - 第1回)

コロナ後の「ニューノーマル」は何か?

新型コロナウイルス感染拡大で在宅勤務が急速に広まった

新型コロナウイルスの感染拡大で在宅勤務が推奨されたことから、多くの企業が在宅勤務を導入し広がりつつある。

「人と人との接触を避ける」という必要性からやむを得ず導入された面が強い在宅勤務だが、実際にやってみると、さまざまな利点があることが分かった。

まず、従業者の立場からみると、在宅勤務(リモートワーク)には、魅力的な側面が多い。例えば、悪天候の日に無理して出社する必要がなく、通勤ラッシュから逃れることができる。毎日通勤しなくても、1週間に数日だけ会社に行けば仕事も支障なく進めることができるだろう。「在宅勤務の方が仕事に集中できるので能率的」という意見も多く耳にした。

こうしたことが分かってから、「これまではどうして満員電車で長時間かけて通勤しなければならなかったのだろう」と改めて感じている人が大勢いるのだ。

これまで在宅勤務は、育児や介護などの必要がある場合の例外的な働き方であると位置づけられてきた。

ところが、コロナ感染防止のためにやむを得ず始まった在宅勤務によって、自宅の方が生産的で、業務がうまくこなせる場合が多いことが分かったのだ。

在宅勤務という働き方は、コロナ期の特殊現象ではなく、働き方の大きな変化となる。在宅勤務こそが、「基本的な働き方」になるのだ。

雇い主にも利益

これまで、在宅勤務は会社にとっては望ましくない形態であり、オフィスでの仕事が基本という考えを持っている人がほとんどだった。とくに、企業の管理職の人々ではそうだろう。

ところが、在宅勤務は、企業からみてもメリットが多いことが分かったのだ。

「従業員にとっての魅力的なオプション」であるばかりでなく、「雇い主にも利益をもたらしてくれる」ということだ。

結果、IT関連企業などを中心に、コロナが収束しても在宅を続ける企業が出てきている。

例えば、米ツイッター社は、従業員が望めば永続的に続けられるようにすると公表した。

アマゾンは年明け、グーグルやフェイスブックも今年末までの在宅勤務を認め、マイクロソフトは2020年10月まで在宅勤務の継続をするとの方針を示した。

IT以外の業種でも、在宅勤務永続化の動きがあり、日本でも、すでにいくつかの企業が在宅勤務を通常の勤務形態にするとの方針を明らかにしている。

こうして、働き方の基本にかかわる大きな変化がこれからも引き続き生じるだろう。

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在宅が「ニューノーマル」に

在宅勤務は、コロナ期の特殊現象ではなく、働き方の大きな変化だと述べてきた。一時の変化でなく永続的な変化、つまり「ニューノーマル」(新常態)になる可能性があるのだ。

ニューノーマルに対応できた組織が未来を拓くことになるのは間違いない。もちろん、すべての仕事を在宅勤務に切り替えることはできないだろう。

例えば、製造業では、工場に出勤する必要があることは明らかだ(ただし、まったく不可能であるわけでなく、溶接など作業の一部を自宅で行うことも可能だと報道されている)。

また、対人サービス業も、全面的な在宅勤務への切り替えは難しい。さらに、いわゆるエッセンシャル・ワーカー(公共交通機関の職員や配達員など)や、対面がどうしても必要な仕事(医師など)も同じだ。

しかし、少なくとも、多くのサービス業(とりわけ、高度サービス業)とあらゆる産業の管理部門については、「在宅が基本的な働き方」という変化が起きるに違いないと思う。

ただし、在宅勤務に問題がないわけでない。

日本では、住宅事情が良好でないため、自宅での仕事には、十分なスペースを確保できないなど、さまざまな障害がある。また、学校が休校になっている期間には、子供が仕事の邪魔をする場合もあり、なかなか思ったように仕事ができないことが多いのも確かだ。

また機器や通信費の負担を個人が持つのか、会社が持つのかも、問題の一つに挙げられる。

働き方の基本が変わる

雇用主の立場からみた在宅勤務はどうだろうか。

これまで敬遠されてきた在宅勤務という新しい働き方を認めることは、人材の確保が以前よりも容易になるのではないかと考えている。

また、多くのオフィスワークにとって、実際のオフィスの大部分は要らないことが分かったので、家賃の高い大きなオフィススペースから、小さめのオフィススペースに変えることができ、経費の削減にもなる。

もし、オフィスが残るとしても、それは、「従業員が毎日集まる場所」から、重要な会議や共同作業のための「ミーティングスポット」に変わるため、コロナが収束したとしても、都心のオフィス需要は大きく減少するだろう。

それだけでなく、住まい方や都市構造にも影響が及び、地価の構造にも大きな変化が生じる可能性がある。

都心に通勤しないで済むなら、郊外や田舎に住んで働くこともできるため、住居費の節約にもなる。

このように、在宅勤務は、従業員と雇用主の両方にとって望ましい働き方となるのだ。

では、在宅勤務は実際にはどのように行われ、どのような対策を行っているのだろうか?この点について次回で述べることとする。

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PROFILE

野口 悠紀雄(のぐち ゆきお)

野口 悠紀雄(のぐち ゆきお)

早稲田大学ビジネス・ファイナンス研究センター顧問、一橋大学名誉教授

1940年東京都生まれ。1963年東京大学工学部を卒業。1964年大蔵省(現、財務省)に入省。1972年エール大学経済学博士号を取得。一橋大学教授、東京大学教授(先端経済工学研究センター長)、スタンフォード大学客員教授、早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授などを歴任。近著に、『野口悠紀雄の経済データ分析講座 企業の利益が増えても、なぜ賃金は上がらないのか?』(ダイヤモンド社)、『だから古典は面白い』(幻冬舎)、『中国が世界を攪乱する』(東洋経済新報社)など。

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