ニューノーマルへの移行を阻むもの - コロナ後の「ニューノーマル」は何か?(野口 悠紀雄さんコラム - 第3回)

コロナ後の「ニューノーマル」は何か?

新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、世界各国でリモートワーク(在宅勤務)が広がった。そして、これが働き方のニューノーマル(新常態)になりつつある。

しかし、残念ながら、日本は立ち後れが目立つ。

リモートワークの普及度合いについては、厚生労働省がLINE株式会社と共同で実施している「新型コロナ対策のための全国調査」というアンケート調査がある。

第1回~第3回の調査結果では、オフィスワーク中心(事務・企画・開発など)の仕事について、リモートワーク実施率は、4月12~13日時点で全国平均で27%だった。緊急事態宣言前に比べれば大きく伸びたものの、政府目標である7割には遥かに届かなかった。

都道府県で大きな差があり、東京都では最大52%だったが、5%未満の県も多くみられた。

さらに、5月25日に緊急事態宣言が解除されると、それまで行っていた在宅勤務を止めて、オフィスへの出勤体制に戻した企業もある。

このように、リモートワークは、期待されたほどには普及していないのが実情だ。

いったんは抑圧されたかにみえたコロナ感染も、その後再び拡大した。事態の推移いかんでは、感染拡大防止のために再びリモートワークが要請されることもあるだろう。それだけでなく、日本における働き方を未来に向けて大きく変えていくという観点からも、リモートワークが要請される。

したがって、なぜ日本でリモートワークが普及しないのかを明らかにする必要がある。

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勤務の評価が成果主義になっていない

普及しない理由は、日本の組織での仕事の進め方が、リモートワークになじまない面が多いことだ。

まず、勤務評価の仕組みがある。日本では、従業員の評価を勤務時間によって行っている場合が多い。つまり、成果主義になっていない。だから、何よりも、会社に『いる』ことが重要だ。ところが、リモートワークになると、勤務状況の把握が難しくなる。管理者(とくに中間管理者)の立場からすると、この点が大きな問題となる。

やむを得ずリモートワークを導入しても、テレビ会議を頻繁に行って、「仕事をしていること」だけをチェックするようなことになってしまう。

したがって、リモートワークを普及させるには、仕事の評価を成果によって行う仕組みに転換させる必要がある。

仮にそうした転換ができるなら、出社して長時間勤務することではなく、成果を出すことが求められるようになるだろう。これこそ、本来あるべき勤務評価のあり方だ。それによって、生産性を向上させることが可能になるだろう。

紙とハンコの文化からの脱却が必要

在宅勤務が進まない理由として、事務処理やデータ処理の仕組みが十分にデジタル化されておらず、紙に頼るシステムが広範に残っていることも挙げられる。

とくに問題となるのは、契約書などに印鑑を押す必要があることだ。他の事務処理は在宅勤務で済ませられるのに、「ハンコを押すだけのために出社しなければならない」というケースが多いといわれる。コロナ期には、ハンコ文化からの脱却は、緊急の課題となった。

日本で電子署名が認められていないわけではない。ただし、今のシステムでは使いにくい。

2001年4月に施行された電子署名法が、その後の技術進歩を反映しておらず、古い技術を前提にしているのだ。

文書の真正性を証明する技術は、この20年の間に大きく進歩した。とりわけ、ブロックチェーン技術の進歩はめざましい。

バルト三国の一つであるエストニアでは、国家を挙げた電子政府のプロジェクトを推進した。国民一人一人が「国民ID」という番号を持つ。電子認証とサインをデジタルに行うために必要なのは、ICチップを埋め込んだeIDカードだ。専用のカードリーダーに差し込み、暗証番号を入力することによって、完全に無料で、電子契約による電子認証と電子署名を行うことができる。

日本でも、こうした新しい技術を取り入れることを考えるべきだ。

日本の低生産性は、OECD諸国で最下位グループ

日本の生産性は、残念ながら低い。

OECD(経済協力開発機構)の最近のデータによると、一人当たりGDPで、日本はOECD平均より低位にあり、もはや先進国とはいえない状態になっている。

2018年における一人当たりGDPをみると、日本は41,501ドルで、アメリカの62,852ドルの約66%でしかない(下表参照)。

それだけではない。韓国は、一人当たりGDPで日本を抜いた。韓国だけではない。すでにイタリアに抜かれており、スペインにも抜かれそうだ。

1990年代頃、日本の一人当たりGDPはアメリカよりも高かった。それが、今やこうした状態になっている。これは、衝撃以外の何物でもない(図参照)。

図 日本とアメリカの一人当たりGDPの比較

図 日本とアメリカの一人当たりGDPの比較

※なお、国際比較をする場合には、名目値を為替レートで換算するか、あるいは各国が作成している実質値を伸び率で比較するしかないため、実質値そのものの国際比較はできない。

資料:International Monetary Fund「World Economic Outlook Database April 2018」をもとに執筆者作成

こうしたことになるのは、日本の労働生産性(就業者一人当たりGDP)が低いからだ。この数字をみると、一人当たりGDPよりもさらに深刻な状況がみられる。日本はアメリカの約58%でしかなく、韓国以外に、トルコやスロベニアにも抜かれている。

表 一人当たりGDPと労働生産性(2018年)

表 一人当たりGDPと労働生産性(2018年)

※単位はドル。この数字は購買力平価によって評価したものであり、購買力平価は、基準時点をいつにとるかによって結果が変わる。

資料:OECD.Stat「GDP per capita levels and Labour productivity levels - most recent year」をもとに執筆者作成

こうしたことになってしまう原因は、在宅勤務の普及を妨げている原因と同じものだ。つまり、成果主義への転換がなされていないことや、紙と印鑑のシステムから脱却できないことだ。

今は、コロナをきっかけとして、この事態を改善するチャンスだ。

労働生産性を引き上げ、豊かさを再び手にするための最後のチャンスだといえよう。それを実現できれば、「災いを転じて福とする」ことができる。

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PROFILE

野口 悠紀雄(のぐち ゆきお)

野口 悠紀雄(のぐち ゆきお)

早稲田大学ビジネス・ファイナンス研究センター顧問、一橋大学名誉教授

1940年東京都生まれ。1963年東京大学工学部を卒業。1964年大蔵省(現、財務省)に入省。1972年エール大学経済学博士号を取得。一橋大学教授、東京大学教授(先端経済工学研究センター長)、スタンフォード大学客員教授、早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授などを歴任。近著に、『野口悠紀雄の経済データ分析講座 企業の利益が増えても、なぜ賃金は上がらないのか?』(ダイヤモンド社)、『だから古典は面白い』(幻冬舎)、『中国が世界を攪乱する』(東洋経済新報社)など。

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