がんが教えてくれた、生き抜くことの素晴らしさ-がんと向き合い、いまを生き抜く(アグネス・チャンさんコラム-第3回)

アグネス・チャン (あぐねす・ちゃん)

がん発見からまもなく10年になります。がんになったことで、私はたくさんの人たちとの出会いやふれあい、子どもたちの成長を見届ける喜びをより強く感じることができました。最終回となる今回は、がんを早く見つけることや自分に合った治療を受けることの大切さ、早期発見のおかげで無事に還暦を迎えられた私が、これからの人生に向けて抱く夢、生き抜くことの素晴らしさについてお話したいと思います。

アグネス・チャン (あぐねす・ちゃん)

自分を守る一番の方法は、早期発見、早期治療

私は2008年、つまり乳がんの手術を受けた翌年に、がんに関する知識の普及・啓発やがん検診の推進、専門家の育成などに力を注いでいる公益財団法人日本対がん協会の、初代「ほほえみ大使」に就任させていただきました。「がんの早期発見・早期治療の良い環境を作るために貢献したい」という想いから、現在も活動を行っています。

活動をしながら感じるのは、日本は先進国の中で、医療側の体制も、がん検診を受ける側の意識も遅れているということです。前者については、検診を受けられる場所が限られているため遠くまで足を運ばなければいけなかったり、受け入れられる人数が少なかったりすること。後者については「面倒くさい」「忙しくて検診に行く余裕がない」という人や「自分は健康だから大丈夫」と過信している人がたくさんいること。さらには、「がんが見つかったらこわいから検診を受けない」という人も少なくありません。それでは「知らずに死んだほうが楽」という論理になってしまいます。がんと闘いながら必死に生きようとする人たちもいるのに、それはあまりにも悲しい考え方です。私もがんになったけれど、いまこうして生きていることに感謝しています。病気が見つかることをおそれず、ぜひ生きるために検診を受けてほしいです。

いまやがんは治せる病気です。がんがこわい時代ではなく、自分の体の中でがん細胞が増えていることに気づかないのがこわい時代なのです。「これさえ行えば絶対がんにはならない」という予防法がない以上、自分を守る一番の方法は早期発見、早期治療なのです。

万一がんになったら冷静に向き合うことが大切

乳がんの検査でいえば、少なくても40歳を過ぎたら乳房専用のレントゲン検査であるマンモグラフィーを一度は受けてほしいです。40歳以下であれば乳腺が発達しているのでマンモグラフィーと超音波を合わせて調べてもらうと、がんの発見はより確実になります。

万一見つかっても、治療法の選択肢はたくさんあります。どんなところで、どういう治療や手術を受けたいかを、ウェブサイトで調べるのもいいし、日本対がん協会などの機関に電話で相談してみるのもいいでしょう。最初のお医者さんに納得がいかないのであれば、セカンドオピニオン、サードオピニオンを見つけて、自分に一番合った医療機関を探してみてはいかがでしょう。

また、闘病生活に入っても働き続けるのか、いったん仕事をやめるのかなど、判断すべきことはたくさん出てくるはずです。そんな時はむしろ冷静になって、ライフプランとして病気と付き合いながらどういうふうに生活していくかを決めていくとよいと思います。

一番してはいけないのは一人で悩むこと。相談相手はたくさんいます。乳がんの早期発見の重要性と乳がん検診の必要性を啓蒙する「ピンクリボン」の団体が全国にあり、そこでがんを体験した方々の話を聞いたりアドバイスを受けたりできます。そうした機会も利用して、最後は自分なりに病気との向き合い方を考えればよいのではないでしょうか。

新鮮な気持ちでこれからの人生を楽しみたい

乳がんの手術後、私はがん検診を半年に1回受けてきました。再発の可能性が高い10年間はそのペースで続け、その後は年1回と少し間隔を空ける予定です。ちょうど10年たったその日、今まで支えてくれた人たちとみんなで乾杯したいと思っています。

私はこの9年間に、同じ病気と闘っているたくさんの人々と出会い、仲間が亡くなれば深く悲しみ、誰かが助かったと聞くと心から喜び、「こんな感動を繰り返す人生はなかった」と感じています。病気になったとしても、決して後ろ向きになる必要はないのです。がんと向き合うことで、私はむしろ人生が豊かになったとさえ思っています。

実は、昨年から「終活」に入りました。無事に還暦を迎えて干支が一回りしたので、0歳に戻ったという真っ白な気持ちで、何事にも大事に、謙虚に取り組みたいと考えています。終活とは「どうやって人生を終えるか」ではなく、「残された時間をどうやって生きるか」だと思います。60年以上も生かしてもらったいま、人生を一度リセットして、ありがたく毎日を過ごそうというのが私の終活のテーマです。

終活を始めたら、毎日がキラキラ輝き出しました。初めてのことにチャレンジしてみようとか、行ったことのないところへ出かけてみようとか、しばらく会っていない人のもとへ足を運んでみようとか、いろいろと夢がひろがります。

今後ぜひやってみたいのは、知らない国を一人で旅すること。これまで海外へ行く時は必ず家族やマネージャーと一緒で、純粋な一人旅の経験がないのです。行き先はアメリカなどでなく、少しハードルが高い国々。英語が通じず、誰も助けてはくれない場所で、ドキドキしながら旅がしたいのです。

そんな先々の楽しみを持つようになれたのも、病気を通じて人生の豊かさを知ることができたからにほかなりません。だからこそ、がんを早期発見できた幸運と、今日まで支えてくれた人たちに対し感謝せずにはいられないのです。

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PROFILE

アグネス・チャン (あぐねす・ちゃん)

アグネス・チャン (あぐねす・ちゃん)

歌手、エッセイスト、大学教授

1955年香港生まれ。1972年「ひなげしの花」で日本デビューし、一躍アグネス・ブームを起こす。上智大学国際学部、カナダのトロント大学(社会児童心理学科)を経て、1989年には米国スタンフォード大学教育学部博士課程に進学し、1994年教育学博士号(Ph.D.)取得。1998年日本ユニセフ協会大使、2016年にはユニセフ・アジア親善大使に就任。現在、芸能活動に加え、エッセイスト、大学教授、日本対がん協会「ほほえみ大使」など、知性派タレント、文化人として世界を舞台に幅広く活躍。「スタンフォード大に三人の息子を合格させた50の教育法」(朝日新聞出版)ほか、著書は80冊以上に及ぶ。

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