何歳からでも新たな一歩を踏み出せる-女優と介護、二足のわらじを履き続ける理由(北原 佐和子さんコラム-第3回)

北原 佐和子(きたはら さわこ)

皆さん、こんにちは!北原佐和子です。

このコラムも最後ですね。過去2回では、長年芸能の世界で生きてきた私が、介護という異業種に挑戦した理由、そのやりがいについてお話ししました。私にとってはどちらもライフワークで選べるものではありません。失うことのできない結果「二足のわらじ」を履き続けています。

最終回では、私が女優と介護の仕事を続ける理由、そしてそれによって得たものなど、私なりの仕事の向き合い方をお話ししたいと思います。私の体験が何かしらのヒントになるのでしたら幸いです。

欲張り過ぎず、目の前の仕事に全力投球することを心掛けた

女優業と介護業。私が異なる業種の仕事をしていることに対して驚かれる方もいますが、私にとってはどちらも大切な仕事であり、大きな生きがいです。

現在は医療の知識も身に付けた上で、より利用者さんに寄り添った介護をしたいと考え、看護専門学校に通っています。そのため今は女優業はセーブしていますが、卒業後はさらにパワーアップして、二つの仕事に全力で取り組みたいと考えています。

でも、二つの仕事を両立することは最初から順調だったわけではありません。時間のやりくりで悩むことも多々ありました。

例えば、ある日は朝8時30分に介護施設に出勤し、午前中のみ勤務してから、自転車で自宅に帰り、慌てて着替えて舞台稽古へ行く。また別の日は、日中は京都でドラマの撮影をし、終了後、新幹線で東京に戻って介護施設で夜勤をする……そんなこともよくありました。

自分で選んだ道とはいえ、働き方が異なる仕事同士のスケジュールを調整する難しさを痛感しましたね(苦笑)。でも、そのメリハリある時間は新鮮で楽しんでもいました。

でも最近は潔く諦めたり、割り切ることも大事だと考えるようになりました。

例えば、突然、魅力的な女優業のオファーが入ってきたとしても、すでに介護の仕事の予定が入っていれば、先方に事情を説明し、勿論残念に思うこともありますが、時には潔く諦め、介護の仕事で最高のパフォーマンスが発揮できるように切り替える。そんな風に、自分が向き合っている仕事に対して全力投球を心掛けるようになってから、自分が今できることが分かり、頭でも体でも二つの仕事をだんだん整理できるようになった気がします。

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気持ちにメリハリが生まれ、仕事の向き合い方にも変化が

ここまで聞いて、「二足のわらじを履くなんて大変!」と思われた方もいるかもしれません。でも私は介護の仕事もするようになって、精神的にはむしろすごく楽になったんです。

介護の仕事は大変な面もありますが、日々、利用者さんとのやり取りの中で発見や感動がある、やりがいの大きな仕事です。私にとって特に新鮮だったのは、仕事中は自分が「無」になれることでした。

女優は、常に自分が周囲からどう見られているかを意識し、自分の存在を伝えなくてはなりません。一方で介護の現場では、利用者さんにリラックスしてもらうために、私が「無」の状態になることが求められる場合もあります。心を無にして仕事に打ち込めるだけでなく、女優として演技の幅を広げるきっかけにもなりました。

二つの仕事に共通しているのは、ともに人間そのものに深く関係することだと思います。

女優として役作りをするには、演じる人物がどんな人なのか、どんなことを考えているかを深く掘り下げる必要があります。介護の現場でも、利用者さんの思いを感じ取り、その人が心の底で何を必要としているかを察知しなくてはなりません。

だからこそ、舞台でお客さんから感動の拍手をもらったとき、利用者さんと気持ちが通じ合ったと思える瞬間……それはまったく同じような大きな喜びを感じます。

女優と介護という二つの仕事があることで、気持ちの切り替えやストレス解消がうまくできるようになったようにも思います。女優の仕事でも以前ほど気負わず、自然体で演技に取り組めるようになりました。ウジウジ悩んでいられる時間がない、というのが正直なところかもしれませんが(笑)。

いずれにしろ二つの仕事があったからこそ、メリハリのある日々を送れていることは間違いありません。

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人は何歳になっても成長できるし、挑戦できる

女優と介護の二つの仕事を長年続けて気付いたことがあります。それは、仕事において最も大切にすべき心構えは、どんな仕事でも同じだということです。昔、芸能界の先輩から言われた言葉が、介護の仕事をしていて役立つことがよくあります。

「北原は何をするにもすぐ難しい、分からないと言う。その時点で君はスタートラインに立っていない。すごくマイナスのところにいる。何事も素直にまずはやってみようと、挑戦することで、人は初めてスタートラインに立てるんだ」

これは昔、私がネガティブな性格だったころ、俳優の杉良太郎さんからよく言われた言葉です。私が42歳にして介護の世界に飛び込み、資格取得に挑戦し、今、看護学校で勉強しているのも、この言葉の支えがあったからです。

誰だって新しいことに挑戦するときは勇気が必要です。でも、何事も最初の一歩を踏み出してみないことには、何も始まらない。何も分からない。だからやりたいと思ったことは、あれこれ悩むより、まずはやってみることが大事だと思うんです。

とはいえ今、仕事やプライベートで「これから自分は何を生きがいにしていけばいいのか?」と悩んでいる方もいるかもしれません。そんな方には一度、自分の過去を掘り下げてみることをおすすめします。自分が好きなこと、情熱を注げられることは、自分が歩んできた過去の時間の中に隠されていることが多いからです。

私も、女優業に頼らず、「自分の足で立ってみたい」と考えたとき、自分の過去を掘り下げました。そして介護という、自分がやりたい仕事を見つけたんです。その結果、今、20代・30代の若い学生とともに机に向かう日々を送っています。

20代のころは、まさか自分が50代になって学校に通うことになるなんて思ってもいませんでした。でも今は、人は何歳になっても成長できるし、挑戦できる。新たな一歩を踏み出せる。そう心から実感しています。

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PROFILE

北原 佐和子(きたはら さわこ)

北原 佐和子(きたはら さわこ)

女優、元歌手、介護福祉士

1964年埼玉県生まれ。高校在学中にミス・ヤングジャンプに選ばれグラビアデビュー。1981年アイドルユニット「パンジー」を結成し、1982年ソロデビュー。映画・ドラマ・舞台など女優業を中心に、レポーターとしても活躍の傍ら、介護活動に興味を持ち、2005年にホームヘルパー2級の資格を取得すると、実際の福祉現場を12年余り経験。現場経験を積みながら、2014年に介護福祉士、2016年にケアマネジャー(介護支援専門員)の資格を取得。現在は、ケアマネジャーという立場で医療知識を身につけたく看護学校に通う。また、ボランティア活動として『いのちと心の朗読会』を各地の小中学校や病院などで開催している。

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